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□SP
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  SP




辺りは燦然とし、壁は爆発や銃撃により焦げたり破壊されて殆ど原形を保ってはいない。
静寂が包み、聞こえて来るのは壁が崩れる音と、自分達の息使い。そして、遥か遠くから人質達の小さな悲鳴。


(…、暑い、な)

背中を壁にし、ツゥと伝う汗を乱暴に拭うと、隣で同じく短く息を吐きながら周囲を伺う同僚に言葉をかけた。


「暑いね」

「ええ、まったく」


嫌だわ、早くシャワー浴びたい。と愚痴る紅蓮の髪の少女に苦笑を零し、手にしている銃の弾を取り替え残弾を床に落とす。


「本当、苛々するっ」

彼女は僕に視線を向けずに舌打ちをし、後方へ意識を集中させる為に身を正すが、破れたスーツから覗く太股に不謹慎ながらゴクリと生唾を飲み下した。

ああ、確かに彼女は魅惑的だ。けれど、だからといって僕が想像したのは違う人。


「あ〜〜ルルに会いたいなぁ」


「ルル違う!ゼロ≠諱Aちゃんとコードネームで呼びなさい」


半壊した天井を歎きながら情けなく呟く僕に、彼女は眉根を吊り上げ窘める。が、



「この大臣の警護任務でさ、2週間会って無いんだよ?もうーいい加減ルル欠乏症」



ハァ〜、と盛大な溜息を吐き出した僕に彼女はげんなりと肩を落とし、「私だってゼロと会って無いのよっ、」と零す。
僕はうーん、と首を捻り口を開こうとしたら、突如入る通信に耳を澄ませた。


ーザ、ザザザ


ノイズ音に続き、微かに聞こえる低い少年の声にドキンと胸が高鳴った。


『−‥スザク、カレン、聞こえるか?』


「「ゼロ!」」



2人して嬉々とする僕達に通信機の向こうの彼、ゼロはきっと怪訝な顔をしているだろう。



『‥カレン、現状は?』

「はい。人質の半数は井上さん達が救出させましたが、残りは依然犯人達の元に。藤堂さん朝比奈さんは2階ロビー前、扇さん、玉城は4階の犯人達が潜伏している部屋の真上に。私、スザクは3階、目的部屋廊下正面です。犯人の数は男が4人に女が2人の6人グループ。所持凶器はマシンガン、小型拳銃等で、ダイナマイト系は所持してません。ですが、正確な武器確認は出来ません。」


『そうか、なら条件はクリアされたも同然だ。』



ゼロは満足げに言葉を発し、僕は手にしている銃を構え直して何時でも飛び出せる態勢に腰を落とし身構え、カレンは銃を片手に手榴弾に劇薬を巻き付けた彼女特製の爆弾を3個持ち、通信機に耳を傾ける。


『カレンは23秒後、3時の方向に手榴弾1つ、その4秒後に5本目の柱を砕き、後、スザクを筆頭に全員本陣へ突っ込め!』




「「YES BOSS!!」」





 *



「邪魔だーーーー!!」


カレンの怒号と共に砕け崩れ落ちる建物を軽く避け、爆風巻き上がる中、僕は扉を蹴破り部屋の中で瓦礫の下敷きになっている6人の犯人を一瞬で視界に捉え、他の奴らはと銃構え周囲を見渡すがそれらしき人物は見当たらず、部屋の隅で踞る9人の人質達と、扇と玉城がいた。


「人質は!?」

「全員無事だ!怪我は皆軽傷で問題はない」


「そ、…よかった。」



ほぅ、と小さく安堵の溜息をつく。が、どうもおかしい状況に不信感が募る。
いつのまにか瓦礫から助けた犯人を縄で縛り終えたカレンがやってきて、彼女も僕と同じ怪訝に顔を歪め、煮え切らないとして執拗に周囲に眼を配る。



「…何か、嫌な予感がするわ」

「うん…、僕もだよ」


犯人は全員、いる。報告では男が4人、女が2人。瓦礫に埋もれたのはその6人。
大臣も無事、人質も無事。だけど何故かスッキリしない。勘、といえば良いのか分からないが、何かが引っ掛かるのだ。


「…ゼロ、」

『ああ、どうやら成功したみたいだな。お疲れ様……とは言えない状況か?』

「ううん。犯人は全員捕まえたよ、人質とマルタイも無事。任務、完了………だけど何か違うんだ」


『…野性の勘、か?』


「分からない…。ねぇ、嫌な予感が止まらないんだ」


『……』



相変わらず銃を構え気を周囲に張りつつ、ぐっと唇を噛み締め、脳内に響く警戒音に似たソレが次第に大きくなって顳みに痛みが生じる。


「ゼ、」

『…いいか、スザク。ゆっくりと人質の元に行け。絶対に人質に気付かれずにな!』

「ぇ…?」



余りの唐突の事で通信機に意識を反らした、

瞬間。



窓から現れた男が大臣に銃を向け何の躊躇いも無く全発を発砲した。





「ーッ!!!?」



気付いた時には地面を蹴って全弾を体に浴びていた。



『スザクッツ!!!?』

「いゃぁあああ!!!」



「、貴様ァア!!!!」

噴き出す血飛沫に弓なりに傾き不自然に歪む体、聞こえてくるのは悲鳴と悲痛に叫ぶ彼の声。
ふ、と視線を窓に向ければカレンが残党に渾身の一撃を食らわし気絶させていた。





「…、マル…タイ……」







そこで僕の意識は途切れた。







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