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□初音ルルにしてあげる!
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 フライングスタート



僕はさっきからソワソワして研究に身がまったくといっていい程集中出来ないでいる。

(あーもー!全然時間が進んでいないよ!!)


気にすれば気にする程に時間の経過は恐ろしく遅く、その為に先輩に注意されてしまったのだ。
少し凹んでいたら、ロイド先輩がニヤニヤしながら僕の隣にやってきた。


「枢木くぅーん?さっきから心、此処に在らず。って感じだけど、どうしたのかなぁ〜??」

「え、あ‥すみません‥」

「いーよいーよ。上の空だけどやることやってるしねぇ」

ふふふ、と笑っているけど何だか目が怖くてもう一度謝りを入れ、僕はそんなに上の空だったのかな、と眉を少し潜めた。


「で?恋人でも出来たのかなぁ」

「えっ!!?」

違います違います!と顔を赤くしながら否定するが、ロイド先輩は目を細めて「あやしい〜」と笑う。
うん、恋人‥ではない。
確かにこの気持ちは恋人に会いたくて恋い焦がれてる、っていうのに似ているかもしれないが、それは人間の女性限定であって、現に今僕が早く会いたいと思っている相手は、女性であるが人間ではない。

「、最近、やっとVOCALOIDが手に入りましてね、‥調整するのに嵌まっているんですよ」


そう、機械なのだ。

照れ臭そうに答えれば、ロイド先輩は、ああ〜!と言い、人の悪い笑顔を浮かべる。

「非独立型楽曲支援ボーカロイド・初音ルル。だね?」


「え?そんな名前だったんですか‥‥??」

ロイド先輩から出て来た長く堅苦しい名前に一瞬驚いたが、何故ロイド先輩が知っているのかと不思議に感じた。すると、そんな僕に気付いたのか、ロイド先輩は僕の肩にポン。と自分の手を置きニンマリと口を歪め笑った。


「ボク、製作者」

「はへ!?」


いきなりな言葉に思わず素っ頓狂な声が出て急いで自分の手で口を塞ぎ、本当ですか!?とロイド先輩を見つめれば、彼はお茶ら気て「そうだよ〜ん♪」と上機嫌に言う。


「‥……驚いたなあ…」


本当、ビックリした。だってこんな身近にあの子の産みの親がいたなんて、……どうしよう。今、凄く感激してる。
ロイド先輩に、あの子を作ってくれて有難うございます!と手を握り感謝の意を述べたい気分だ。


「ロイ、」

「ところでさぁ、調教何処まで進んだのかな〜?」

「ぇ、ぇと…」

感謝の言葉を言おうとしたらロイド先輩の声に遮られ、代わりに今の調教具合を聞かれて僕は頭を捻り、あの子の状況を思い出し、大体の事をロイド先輩に報告した。




「あれ〜意外や意外!!こんな短時間で結構調教されてるみたいじゃないの〜、何だかボクは嬉しいなぁ〜♪」

「い、いえ!!僕なんかまだまだですよ!他の人の初音は、神調教、ですからね…」

自分の力不足のせいであの子が非難されて、中傷されていた時の事を思い出し、ヅキリ、と胸が軋んだ。
あの子は、瞳を潤ませながら僕に謝る。自分のせいで、お前が非難されて…情けない、と言ったあの言葉。違う、違う、君のせいでは無いのに!

顔を俯かせ、苦渋に歪む僕を見て、ロイドさんはオヤオヤ、と肩を竦めると、己の白衣のポケットを探り出し、見つかったソレを僕の目の前に差し出して来た。


「…、何ですか、コレ??」


そこにあったのは、苺の形をした小さな機械。本物の苺と同じ位の大きさで、大変可愛いらしく、何故ロイド先輩がこんなメルヘンみたいなのを持っていて、尚且つ僕に渡すのか理解に苦しむ。

「ちょっとぉ〜。そんな不審者見るような眼をしなぁーい!そ、れ、は〜〜あの子を大切に大切にしてくれている枢木君へのご褒美でぇす★」


「え、えぇえ??」


ご褒美??と眼を丸くして手の中にある苺みたいなのを凝視し、ロイド先輩に目線を向ければ笑顔の彼がいた。

「ふふーん、ソレはね〜秘密兵器。なんだよ」


「秘密、兵器…ですか?」


「そ!現状態の初音ルル。じゃあ駄目だろうけど、もっともっと調教して、万人から君の初音ルル。が認められる様になったら、ソレを使いなさい。ほら、後ろにプラグあるでしょ?PCにポチーっと差し込めばいぃ〜んだよ」


簡単でしょお?とあっけらかんと言ってのける先輩に目眩がした。僕の、初音ルル。を万人に認めさせる……。それは、再生数が万単位以上の事を指すもので、相当良くなければ万単位なんか行かず、埋もれるか荒らされるか、はたまた消されてしまうか、と大変厳しいのだ。

(僕に出来るのか……?)


ぐるぐると混乱する僕を見兼ねたロイド先輩は、何時もの人をおちょくった顔をして僕の手の中にある苺を指差して言った。


「好物は苺とプリン、」

「え、?」


ロイド先輩はニコニコと笑い、君のルルちゃんにあげて見ればぁ?という。一瞬、何を言っているか分からなかったが、どうやら初音ルル。の好物らしく、僕は一気に笑顔になった。

だって、ルルが喜ぶ!


あの子が喜んでいる姿を想像しながら、ぽやぽやと周囲に花を飛ばしていたら、ついでに〜とロイドさんから初音ルルのプロフィールの紙を貰った。

「ロイド先輩!本当に有難うございますっ!!」

ガバッ!と勢いよく頭を下げ礼を述べると、ロイド先輩は「かまないよ〜」と手を振りながら背を向けて研究庫の中へと消えて行き、それと同時に終了のチャイム。

僕は自分の手の中にある苺を決意を込めてギュ、と握り締め、あの子が待つ帰路へと急いだ。














絶対に、この苺を君に!



08.03.11

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