駄文@

□ジャミ監I
3ページ/3ページ


B



なのに、終わりの日はいつも突然やってくるんだ。


「監督生さんは、お亡くなりになっています。」

薄々そんな気がしていたから、俺はショックを受けなかった。
あぁ、やっぱりなぁ。
漠然とそう思えた。

「この世界に居ても、監督生さんは何の前触れもなく、消えてしまう可能性があります。」

魂がない、空っぽのイレモノの中に居る監督生は、存在が朧気になっていた。

監督生の帰る場所が無くなってしまった。
戻っても待つのは死だけ。
俺を攫う予定が台無しだ。
行き場所は何処になるんだ。
俺は何処でもいいんだ。
君と居られるなら。

いつか消えてしまうかもしれない。
なら、消える可能性を潰せばいい。
君の存在を留められる方法さえわかれば。
君は消える事なく存在し続ける。

消えてしまう前に、私と別れて下さいと言われても

「絶対に嫌だ。」

お断りだ。
一度掴んだ手は離さない。

「俺は絶対にお前をここに留める方法を掴む。」

知ってたんですね、と君は呟く。

「…俺だけじゃない。皆が探してる。」

君の目が、涙で潤む。

「ユウ、俺だけには本心を言ってくれ。」

言えないと、君は首を振る。
それだけは、言えないと。

「…ユウの本心を教えてくれ。」

その手に、触れられたいです。
ポツリと一つずつ。
君の手を握りしめる。

「あとは?」

…消えたくない。

「絶対にそんな事はさせない。」

消えたくないです。

「大丈夫だ。」

そばにいたいです。

「ずっと一緒だ。」

大丈夫、全て上手くいく。
君は知っているだろう?
俺は優秀なんだ。
だからすぐ見つけてみせる。
君が存在し続ける方法を。

だけど、君の存在は刻一刻と薄まっていく。
眠る時間が増えていく。
焦る気持ちを嘲笑うように、どの魔導書をめくっても一切手掛かりは見つからない。
絶望感に襲われる俺の前に現れたのは

「もう思い出せないかな?」

知らない奴だ。
なのに、既視感がある。
俺はコイツを知っている。

「ずっと君達を見守っていたんだ。」

話したことがある気がする。
なのに、思い出せない。
前にもこんな事があったような気がするのに。

「大丈夫だよ。僕はね、ハッピーエンドしか許せないんだ。」

何を言っているんだ?コイツは。

「存在が朧気になっていたね。」

ユウの事も知っているのか?
何故?
何故思い出せないんだ。

「大丈夫。」

そいつの手に光るマジカルペン。
だけどその色は何処の寮にも属さない。

「彼女は何処にいるのかな?」

コイツは害がない事を俺は知っている。
思い出せないのに、わかる。
黙ったまま、オンボロ寮に連れて行く。

姿が朧気なユウは、日に日に眠る時間が長くなっていた。
規則正しい寝息だけが、彼女が存在する証明になっていた。
ユウの側には、グリムとエースとデュースが居た。
突然知らない奴を連れて現れた俺を、不審がる気持ちはわかる。
でも今は藁にでも縋りたい。

「これを、彼女に。」

虹色の飴玉を、俺の手に握らせた。
それは微かに光っていた。
俺はユウを抱き起こし、飴玉を口の中へ入れた。
ユウの唇が微かに光る。
飴玉が溶けるのと同じ速度で、光はユウの全身を包んでいく。

「名前を呼んで、口付けを。」

言われるままに

「ユウ。」

名前を呼んでから、唇にキスをした。
ユウの身体が強く光り出した。
眩しくて目を開けていられない。
部屋全体を包むように、眩しく、暖かい光。

「ユウ!!起きろ!!」

無我夢中で叫ぶ。

「ユウ!!!起きろ!!!」

エースも

「ユウ!!!起きてくれ!!!」

デュースも

「子分!!ユウ!!起きるんだゾ!!!」

グリムも叫ぶ。
光が収まっていく。
小さくなっていく。
ユウの胸の上に集まって、吸い込まれて消えた。

「ユウ!!」
「ユウ!!」
「ユウ!!」
「子分…、ユウ!!!!」

ピクリとユウの指先が動いた。
瞼がそっと開かれて


「…ん…」


ユウは目を覚ました。


「…ジャミル先輩…」
「…あぁ。」
「エース」
「…おはよ。」
「デュース」
「っ、…よかった…!」
「グリム」
「ぶな゛〜〜〜!!」

グリムはユウに抱きつく。

「…私…、どうなったんでしょうか…」
「…あれ?そういやどうしたんだっけ。」
「…バイパー先輩が来て…」
「ユウに何か食わせたんだゾ。」
「そしたら、一週間寝たままだったユウが目を覚ましたんだ。」
「…ジャミル先輩何したんすか?」
「…すまない、俺も、思い出せない。だけど、これでもう、大丈夫だという、変な確信だけがあって…」

ユウは窓の外を見つめていた。

「あぁ、そっか。」

ポツリとそう納得したように呟いて

「とりあえず、学園長に知らせた方がいいな。」


事の顛末を学園長に話し、ユウは精密検査や魂の濃度や存在証明を受けた。

「…安定してますね。」
「…そんな事ってあります?」
「前代未聞です。そう言えば貴方はここに来た時からそうでしたね。前代未聞の監督生さん。わたしは驚きませんよ。」
「…学園長、私はここに居ても大丈夫でしょうか。」
「貴方まだ一年生でしょう?ちゃんと進路を決めて、立派に卒業なさって下さいね。」
「…はい!」 


ユウはまた消えてしまうかもしれない。
だけど何故だろう。
そんな事は絶対にないという、確信がある。


「…案外私達、凄い人に手助けされたのかもしれませんね。」
「…?」
「…一生ハッピーエンドが保証されてるんです。」


それはきっと、俺の女難の相を吹き飛ばす程の威力を持つ確定されたハッピーエンド。
一生無縁だと思っていた。
だけど、監督生と居るなら。
どんな不思議な事も受け入れる。

君が掴んだ手は離さない。









「…さて、次はだれにしようかな?」
次の章へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ