駄文@

□ジャミ監I
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「どうやら私、ジャミル先輩が好きみたいなんだよね…。」

エースとデュースとグリムとジャックとエペルと、食堂で昼食を食べている時。
よりによって、そのタイミングで私は爆弾を投下した。
ゴフッとエースがむせた。
グリムはフレーメン反応でも起こしたかのような顔で真っ直ぐに見つめて

「…正気か?」

そう、尋ねた。
グリムと二人で過ごしたウィンターホリデーはまだ記憶に新しい。
あの件があったからこその重みのある一言。

「バイパー先輩か、綺麗な人だよな。」
「俺もあんま良く知らねぇけど…。」

ジャミル先輩を良く知らないデュースとジャックとエペルに対して、部活が同じでジャミル先輩という人となりをある程度把握していたエースの反応が、何故かグリムと似たり寄ったりなのはちょっと面白い。

「…ジャミル先輩ねぇ…。」
「ユウ、忘れたとは言わせねーんだゾ…。」

私は真顔で頷く。

「大丈夫。わかってる。私はまだ冷静を保っています。」
「だったら、何でよりによってアイツなんだゾ????」
「わかっているの!わかっているのに、気が付いたら好きになっていたんだ!」

当の本人が、一番、理解し難い感情でもあるんだ。
とりあえず、食堂で話すには人も多いし、ご飯を食べてしまってから、人気のない空き教室に場所を移した。


「…ウィンターホリデーの一件が終わって、普通に顔を見れば挨拶する程度の、ごく普通の先輩と後輩でした…。」

まるで取り調べを受けているかのような雰囲気の中、私はゆっくりと話し始めた。

「だけど、そうですね。キッカケと言ったら思い当たるのは一つでしょうか。」

窓の外へ視線を向ける。
冬はもう終わって春になろうとしてる。

「グリムに宿題を押し付けられて、私は図書室で必死に取り組んでいました。」

グリムが苦笑いする。

「そこへ、ジャミル先輩が来て、ちなみにあの一件以来、あの人私を見たら、虫でも見たかのように嫌そうな顔をするんですよ。」
「トラウマになってるんだゾ。」
「私は後を引かない事が売りなので、普通に挨拶しました。こんにちは、ジャミル先輩って。そしたら宿題か?って聞かれて。そうですって答えたら、わざわざ隣に座ってきて。」
「教えてくれたのか?」 

デュースは、優しいんだなと付け足すけど、私はフッと嘲笑い

「その程度の問題もわからないのか?まぁ、精々頑張るんだな。って言われました。」
「…キッカケなんだよな?」

そう、恋したキッカケを話しているはずなのだ。
思わず整理したくなるジャックの心中は十分に理解できる。
エースもデュースも同じようで、ハテナマークを浮かべるような顔してる。

「監督生サン、ドM?」

エペルの一言にみんなが顔を伏せた。
エースは声にならないボリュームで、おっふ…、と呟いた。

「いや、早まらないで。さすがにムカついたので、知らない世界の学んだ事もない問題が解けるほど優秀ではありませんね!って言ったよ。そのために図書室にいたんだし、机にだって基礎とか先生に勧められた本とかあったし、私の血の滲む努力とグリムに多少の恨みを抱きながら勉強してる姿がそこにあったわけです。しかし彼は去りました。しかし翌日。」

居心地の悪そうなグリムを逃がさないように抱き抱えるエースは、いや、去ったのかよ。と呟く。
翌日?とエペルが尋ねたので私は頷く。

「私はやはりその日も図書室で宿題していました。提出日が迫っていたので必死です。そこへ昨日同様にジャミル先輩が現れました。また嫌味でも言われるのかと怯えつつも平静を装い、私は挨拶をかかしません。すると、ジャミル先輩は、俺が一年の時に使ってたものでよければと、ぶっきらぼうに問題集を貸してくれたのです。」
「何と言うか…、憎めない人だな。」

ジャックの一言に頷く。
首もげるゾとグリムに突っ込まれる程の勢いで頷く。

「その日から、私が図書室にいる事を把握したジャミル先輩が、様子を見に来るようになりました。」
「…それ、脈アリなんじゃ?」

エペルのその一言に、デュースは、そうなのか?と尋ねる。
 
「気にかけてくれてる、よね?」
「それについては、わからないけど。」
「おっ、恋バナっぽくなってきたじゃん。」
「さすがに次の日は来ないかなと思ったら、また来て、どうだ?なんて聞いてきて。すっごいわかりやすかったです。ありがとうございました!まだ借りてて大丈夫ですか?って聞いたら、すごいドヤ顔で、もう必要ないからやるよ、って。その日以降から何故か宿題見てくれるようになりました。ジャミル先輩とのエピソードはこれで終わり。」
「恋するキッカケ?これ。」
「…これは後日談なんだけど。宿題を提出して、一週間経ったくらいだったかな?昼休みにカリム先輩に話しかけられて、他愛無い事話してたんだけど、図書室でジャミル先輩に勉強見てもらった事、一応話したの。そしたら、あぁ、だからジャミルは一年の勉強してたんだなって。ノートに色々書き込んでるから何してんだって聞いたら、復習だって言ってたけど、そっか、監督生のためだったんだな!って言う、オチが、ありました…。」
「……甘酢っペぇ!!!」

頭を抱えるエペル。

「少女漫画かよ!!!」

何故か赤面のデュース。

「安定のカリム先輩!!!」

どうしてもソコにツッコミを入れたいんだね、エース。わかるよ。

「私の心の声みんなにも届いた?」
「気にかけてもらえてるじゃねぇか。」
「…ジャックもそう思う?」
「どうでもいい奴に、そんな事するような人なのか?」
「いや、見捨てますね…。」
「気にかけるわけがないんだゾ…。」

きっとジャミル先輩は、利用価値のある人にこそ親切にするのだと思う。
しかし私は何の能力も持たない、利用価値のない存在のはず。
どっちかというと、疎まれる存在だったはず。
そんな存在に、親切にする理由などないはずなのだ。
それでも考えられる理由があるとしたら、それは、私が女の子である事、あとは、彼自身がした事に対しての罪の意識か。
は?ジャミル先輩、可愛くない?
そんな事しちゃうの?ズルくない?
私にとって、そのギャップは十分に意識出来る程、衝撃的なものだった。

「だったら、エペルの言う通り、脈アリなんじゃねぇのか?」

何の問題もない、とジャックは付け足す。

「付き合っちゃえば?」

エペルのその言葉に

「…付き合いたいとかはないんだよなぁ。」

私は渋い顔をする。

「告白しねーの?」

エースはニヤけながら。茶化す態勢に入っているのはわかっている。

「私ずっとここにいられるか、わかんないし。」

あぁ、とみんなは黙り込む。

「それに、ジャミル先輩はカリム先輩の事で手一杯だろうし…。」

ジャミル先輩の言う大嫌いは、言葉通りではない。
気付け、鈍感野郎。
その言葉が何よりの証拠のように思えた。
カリム先輩は鈍感ではないと思う。
ただ、人の表層しか見ていないだけじゃないかと思う。
それをジャミル先輩は知ってるはず。
なのに、気付けと彼は言った。
最悪な事件だったのに、あの瞬間、私は兄弟喧嘩を見てるような気持ちになってしまった。
俺はこんなにお前を気にかけてるんだから、お前も俺にそうしろよと。
反抗期拗らせたらああなるのかなって。
ああ、もしかしたらあの事件は、あの人の初めての反抗期だったのかもしれない。

「うん、俺もそこ気になってた。あの二人って、何つーか、家族みたいなもんじゃん。ユウ、お前その中に入っていけんの?って。」

エースもそこを気にしていたようだ。

「二人の関係次第としか言いようがない。邪推であれば杞憂なんだけど。」
「こればっかりは直接聞けないな。」

デュースがそう言ったところで、ベルが鳴りタイムアップ。
空き教室から出て行く。

「どうするつもりもないんだ。ただ、聞いて欲しかっただけだから。」

第三者に聞いてもらいたかった。
自分でも整理したかった。

「少しは整理出来た?」
「うん、やっぱり好きだわ。」
「苦労するぞ?」
「好きなだけなら、苦労しないよ。」

そう、好きでいるだけ。
その先は決して望まないから。
そのくらいなら、許されるような気がしているだけだから。
あの人は私を好きになったりしない。
気があると言われたのは素直に嬉しかったけど、女の子補正の可能性もあるし。
浮かれたらダメだ。
友達で十分だ。先輩と後輩のままで。
何よりも、別れが明白なのに、付き合うような事になったら…。
考えただけでも、切ないから。






一同は教室へと戻って行く。
そこに、ジャミルの姿があった事に、誰も気付かなかった。
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