オリジナル


□便利屋!
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「……翔の方がよく突っ込んでないか?」



 アホーッとからすの声が鳴いていたらきっとこの場に合うだろう。無論、からすは鳴いてくれない。
 その代わりに翔吾の怒声が響く。



「ってめ! 何言われるかと思ってビビってれば言うことはそれかよ! あーあ、ビビって損した! ほんとにお前は! ……ちょっと待て」



 翔吾は怒声を止めて少し考え出す。



「今、何て言った?」

「翔の方がよく突っ込んでいるといったのだ。突っ込むなと言ったくせして」

「だぁぁ! それはお前がボケ派だからいけないんだろうがぁ! 突っ込み派の俺の身にもなってろってんだ! 疲れるんだぞ! 友達に突っ込んでた時より疲れるんだぞ!」

「その友達はボケがきっと薄かったんだな」



 腕を組んでウンウンと頷いている根矢に翔吾の平手が炸裂する。



「お前が濃すぎるんだぁぁ!」



 根矢は頭を片手で抑えながら少し目を吊り上げて言った。



「ボケに濃いも薄いもあるものか」

「お前が先に薄いって言ったんだろ!」



 翔吾はため息をついて近づけていた顔を引っ込め、ドサッとソファに座り込む。肘を膝に乗せて顔を覆う。



「あー。何でお前はそうなんだよ……。ペースについていけない……」



 しばらく唸っていた翔吾は何か思いついて、ソファから立ち上がると自分のロッカーの中を少しあさって何かを取り出した。



「根矢、そこに座れや」



 翔吾はソファを指差して根矢を座らせると、自分は反対側のソファに座って手に持った物をテーブルに置いた。

 小さいプラスチックの箱だ。その蓋を開けて中を取り出す。出てきたのはトランプ。



「いいか。これに根矢が勝ったら俺が今日のところはひとまずやってやる。でも、もし俺が勝ったらこれからは根矢の仕事、自分でやれよ」



 その勝負を聞いて根矢は軽く笑うと、体を乗り出していった。



「いいだろう。その勝負乗ってやる」



 そして、勝負内容。ババ抜き。

 翔吾がカードを勢いよく切って分けた。その配られたカードの中から同じ数字一組を見つけると、どんどん除外していく。
 運がよく、翔吾の手札にはババがない。



『よっしゃ! このままババを引かなければ俺の勝ちだ』



 そんな翔吾の様子を見て、根矢は人知れず笑っていた。



「おっし! まずは俺から引くぜ」



 翔吾が根矢の手札の上に手を持っていく。どれにしようかフラフラ動いていたが、一番隅を取った。取って引いていくがまた戻してしまう。



「どうした?」

「いや、だってこれ嫌な予感がするし」



 翔吾が思ったとおり、さっき取ったのはババだ。翔吾は別のカードを取るとそのカードと同じ数字と一緒に捨てた。翔吾が取り終わった後、根矢は翔吾とは違い、すぐに取っていった。

 そんなことを繰り返しているうちに残りも少なくなってきた。ババはまだ根矢の手の中だ。しかし根矢は余裕の笑みを浮かべている。そんな根矢を翔吾は気に入らない様子だった。



『何でこんなに余裕なんだ? こいつ』



 もうすぐで終わりだっていうのに。
 そう思ってカードを取ろうとすると、一枚だけ少し離れて根矢の手の中に納まったカードがあった。



「……お前、ワザとらしくないか?」

「ん? 何がだ。さっさと引け」

『あれはババだ。……それとも罠か。どっちだ』



 翔吾は心の中で焦った。これでババを引いたら勝つ可能性が小さくなる。そうしたら今日また根矢の仕事をやらなければならない。
 考えた結果、それをババと見ることにした。



「おっし、これだぁ!」



 そして真ん中らへんのカードを思いっきり引く。そして見るとピエロの姿が……。



「ババじゃん!」



 翔吾が衝撃の声を上げていると、根矢がニヤニヤ笑いながら呟いた。



「翔ならそうすると思ったんだ。くくく……。本当にはまるとはな」



 翔吾がショックを受けている間にも根矢はどんどんカードを取っていってしまった。そして同じ数字を一緒に捨てると今度は翔吾の番、と言わんばかりにカードを突き出す。
 その手の中には最後のカードが一枚……。

翔吾は嫌そうにそのカードを取った。同じ数字と一緒に捨てると翔吾の手の中にはババ一枚が残る。

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