オリジナル


□便利屋!
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 便利屋とは、はっきり仕事内容が決まっているわけではなく、いつも行っている内容が違う仕事だ。いろいろな業者から穴埋めとして借り出されているので、その日その日によって違うのだ。ま、あ悪く言えばパシリに近い存在かもしれない。

 しかし、便利屋とは日々新鮮な職業だ。毎日やることが違うというわけだし、運がよければ捜索だとか、便利屋ならでは
の仕事が入ってくることもある。それはごくまれであるが。



 さて、前置きはこれくらいにして、本編へ入ろう。これはある二人の便利屋のお話である……。







 机。その上には依頼の紙。そこにいた男がぺラット少しめくってみるが、その手を離して来客用のソファにもたれかかる。

 彼の名は翔吾。癖のある髪がまだ子供の雰囲気を漂わせている。実際、高校を出て就職をしてからまだ数年しか経っていない。
 彼の職業は便利屋。ちょうど見つけたこの職業をすっかり気に入ってしまって始めたのだ。
 依頼の紙が乗っている机の持ち主は、根矢という翔吾の上司である。翔吾とは見た目が正反対で、髪はほぼストレート、そして大人らしい顔つきをしている。

 そして、今翔吾と根夜が何故か睨み合っている。



「……あのさ、」



 最初に翔吾が話を始めた。



「俺はやったの。自分の仕事。なのに根夜がやってないっていうのは割に合ってなくない?」

「……何故だ?」

「何故って。だって稼いだ分山分けするんだろ? それじゃ俺だけ働いて、根夜は働かないでお金半分貰えてって、ひどいだろ」



 彼らの仕事の決め方は交互に一日当番制である。翔吾がやったら次の日は根夜、根夜がやったら次の日は翔吾というものである。
 しかし、この制度は根夜によってだんだんと崩れ始めてきている。翔吾がやった次の日は根夜の当番なのにやらないで、翔吾がため息をつきながら根夜の分をやってやるという寸法である。

 最初はそんな事はなかった。だが、根夜が翔吾の性格を把握した時から、根夜はサボり始めた。一回だけなら、と甘く見ていた翔吾がやってあげてしまい、根夜はサボる楽しさを知ってしまったというわけだ。
 しかし、翔吾も黙ってはいない。この時その事について始めて文句を言い出した結果が今の状況である。



「……何がひどいんだ?」

「はぁ?」



 根夜の思わぬひと言に翔吾はあっけに取られる。



「何もひどくなかろう。私が仕事の依頼を集めて、翔に提供しているだけだ。私が翔から貰う金は手数料と情報料として貰っているのだ」

「何が手数料だよ。というか情報料ってさ、俺が提供してもらってるんじゃなくってお前が押し付けてるだけなんじゃないのか。やろうと思えば自分で見つけてこれるのにさ」

「そうだ」

「簡単に認めちゃったし!」

「誰が認めたって?」

「だって今認めたじゃん。『そうだ』って」

「違う。あれは思い出した時に使う『そうだ』だ」

「ややこしいんだよ。こういう話をしてる時に。って、人の話し聞いてますか〜?」



 根夜は翔吾の話を無視しつつ、体を少し下に向けて机の一番下の引き出しを開ける。そしていくつかのファイルの中から一枚の紙を取り出して翔吾の目の前に出した。



「いいものがあるぞ」



 少し翔吾は不思議そうな顔をしてその紙を受け取った。そこにあったのは手紙もとい依頼書。
 翔吾が口をぽかんと開けていると根夜が言った。



「力仕事の依頼だ。翔にぴったりだろう?」

「こ……こ……のぉう……」

「お。嬉しいか。嬉しいだろう?」



 にこにこと笑って見ている根夜の前で、翔吾は体を震わせた。



「……の、ばかやろぉぉぉー!!!」



 渾身の一撃が根夜に向けられる。しかし根夜はあっさり避けた。



「避けんな! この、ボケ!」

「避けざるを得ないだろ、普通」

「突っ込みはいらねぇよ! てめぇ、人の話し聞いてたのか!?」



 根夜はその問いに真面目に答える。



「聞いていたぞ。私の仕事分担の話だろう」

「分かっててそういう事を言うかぁ!」

「さっき解決しただろう? あれは手数料と…」

「俺は納得してないだろぉが!」



 翔吾は切れ気味状態になっていたが、根夜は冷静に何かを考え始めた。それに気づいてちょっと心配そうに顔を覗き込む。



「あ、あの〜。根夜〜?」

「ちょっと思ったのだが」



 急に真面目顔になったので翔吾は少し緊張気味になる。



「……さっき翔は『突っ込みはいいんだよ』と言っていたが……」

「……そ、それが何だって言うんだよ」



 翔吾は何を言われるのかと息を呑む。一応上司なのだ。言い過ぎたのかと不安になる。
 根夜は少し間を置くと、翔吾の顔をしっかりと見て口を開いた。


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