Amestris
□小さな訪問者
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第一章 小さな訪問者
「面会希望者?」
ロイは入ってきた兵が持ち込んできた事に、少し顔を上げて不思議そうに聞き返した。
書類のサインを延々と書き続けていた手を一時止めて、ロイは兵の方に向き直った。傍で見張っていたホークアイとハボックも兵の方を見る。
「誰だ。それは」
「はっ。鎧を来た大人と、小さな子供が一人なのですが……」
それを聞いて思わずロイとハボックは吹き出す。
そんな中でホークアイは平然を保ち続け、兵に確認をした。
「それは、鋼の錬金術師とその連れでは?」
「そうだ。そいつは鋼の錬金術師、エドワード・エルリック。鎧はアルフォンス・エルリックだ。分からなかったのか?」
「ですが、本当に子供で……」
ロイはくだらなさそうに頬杖をついて、もう片方の手をひらひらとさせる。
「もういい。とにかく入るように言って来い」
兵は少し戸惑ったようにするが、すぐに敬礼をして出て行った。
しばらくするとノックが聞こえ、ロイが入るように言うと、やはり入ってきたのはアルだった。
「あ、あの、大佐、お久し振りです……」
それに笑顔で答えるロイだったが、もう一人が入って来ないので、不思議そうな顔でアルに問い掛けた。
「鋼のはどうした。一緒だろう?」
「あ、あの、それなんですけど……」
アルは困ったような声を出してちらりと入り口の方を見やる。
ロイが入り口の方に行こうと腰を浮かすと、それとほぼ同時にハボックが入り口へと歩き出した。
アルは一瞬止めようとしたが、そのまま歩いていくハボックを見送った。
扉を開けた状態のままでハボックは廊下を見渡す。そしてハボックの顔が一箇所に止まった。どうやらそこにエドは居るそうだ。だが、ハボックはそのままで動かない。口にくわえていた煙草を無意識に落としてしまう。
「ハボック、どうした? そこに居るんだろう?」
「……えーっと、なんて言えばいいんスかねぇ……」
ハボックは頭を掻いて詳しく状況を言わなかった。
ロイは椅子から立ち上がって廊下を見に行く。
「まったく、一体何なんだ。二人とも少しくらいまともに話……を……」
ロイは言いかけた言葉を止めた。
そこに居たのは、見覚えのある服を着ている、だが見覚えの有るような無いような人。
「……は……鋼……の……?」
短い金髪の小さな男の子が、疲れきったようにして廊下に眠り込んでいた。
* * *
「一体これはどういうことなのか、説明してくれないか?」
ロイは手を机の上で組んでアルに言った。
ソファでは小さな男の子が横になって眠りこけている。その上にホークアイが持ってきた毛布を掛けてやっていた。
金髪、赤いコート、黒い服。どれもある人物の特徴である。だが、その金髪は短く、赤いコートと黒い服はぶかぶかであった。それ以前に、年齢が違いすぎる。
アルいわく、これはエドだという。
アルは一度エドを見てからロイに向き直った。
「……大佐達は、レインガールを知っていますか?」
「それは確か、西方の町だな」
ロイが確かめるようにして言うとアルは頷いた。ホークアイとハボックがそれに付け加えるようにして言った。
「レインガールは確か、色々な医療効果のある湧き水がある町よね」
「そこの偉い人が、レインガールをもっと活気のある町にしようとして、その湧き水を出したっていう伝説のとこだろ?」
二人の言うことにアルはうんうんと頷いた。
「それで、僕達そこに行ったんです。その医療効果に期待して」
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