Amestris
□回憶の兄弟
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「ぷはー、うまい」
「湧き水があって良かったね」
地面にへばりつく様に屈ませていた体を思い切り跳ね上げ、エドは口をぬぐった。その横でアルが苦笑する。
「でもせめてコップに入れてから飲めば?」
「いい。もう十分飲ませてもらったからな」
エドはコップを押し返すと、立ち上がってトランクを片手に持ち歩き出した。
「さ。とっとと進むぞ。また野宿はごめんだからな」
アルも頷いて、エドの傍まで駆け寄る。
太陽は南中に高々と上がっていた。
* * * *
山道を歩き続ける事数時間……。
「くそー! なんで着かないんだー!!」
「それはこっちの台詞だよ。もう、兄さんがこっちだって言い切ったんでしょ?」
どうやら道を間違えたらしい。
二人はオーデルという村に向かっている所なのだが、その途中の分かれ道で、方角的にこっちの方が近道、とエドがずんずん進んでしまったのだ。
「地図通り行けば迷わなかったんだ。僕は反対したのに兄さんがこっちだって決めるから」
「何だよ、俺のせいだって言うのか! アルだってその道でいいって言っただろ」
「それは兄さんが意見を変えようとしないからじゃないか。とっとと進むぞ、とか言って、進めなくしてるのは何処の誰だよ」
「何だと!」
そんなもめ事をしている間に、次の分かれ道に突き当たった。エドがトランクの中から地図を取り出す。アルも横から覗いてみた。二人は地図と道を交互に見て指をさす。
「こっちだな」
「あっちだね」
意見の食い違い。アルは大げさに溜息をつくと、地図を覗き込んで説明する。
「いい? 兄さん。確かにこっちの方角だけど、遠回りでもいいから大きな道に出たほうがいいと思うよ? ほら、兄さんの言う方の道、途中でなくなってるだろ。この先には道がないんだよ」
「道が書いてなくても、大体何かしらと道があるもんなんだよ。それに、ここをつっきればすぐだろ?」
「大体て……無責任だなあ。さっきだってそういう風なこと言って迷ったんだよ? 僕はあっちの道行くからね」
「勝手にしろよ。俺はこっちを行く。じゃあまたな」
エドは地図をトランクにしまうと、アルに背を向けて行ってしまった。
「……もう、兄さんの馬鹿ーー!!」
アルは兄の背中に向かって叫んだが、止まる様子もなければ振り向く様子もない。仕方なくアルも自分の決めた道を歩き始めた。
* * * *
「ほら。やっぱり道があるじゃないか」
エドは歩きながら、土を均して作られた道を見る。
「アルも俺の言う事を聞いていりゃあ、遠回りしなくて済んだのにな〜。よし、先について後悔させ、えぇぇぇ!!?? へぶっっ!!」
急にバランスを崩し、エドは前のめりに倒れて思い切り顔をぶつける。
ゆっくりと体を起こし、足元を見てみると……落とし穴。
「……だ〜れ〜だぁ〜!!! こんなとこに穴なんか掘りやがって!!」
ふとその表情が険しくなったかと思うと、後ろに振り向いて右腕を振り上げた。カンッという機械鎧にぶつかる音がして石ころが落ちてきた。脇の草むらから飛んできたのだ。
「こらぁ!! 誰だ石投げたのは!!!」
「ひっ」
草むらに向かって怒鳴り散らすと、 震え上がった子供が現れた。
「何だ、このガキ……」
「せーの!!」
直後、頭上から掛け声が聞こえてきた。上を見上げると、大量の石が降ってきている。
「げっ!!」
凄まじい砂埃が舞い、エドは小石で埋め尽くされた。
「やったー!! 倒した!!」
大きい籠を持って木から降りてきた子供が完成を上げる。茶色の髪の男の子だ。
「ねぇ、ちゃんと、倒れたかな?」
その男の子より小さいと思われる、黒髪を縛った女の子が言う。
「大丈夫さ。なんせアランの作戦なんだぜ!」
アラン、と言われた茶髪の男の子は、小石の山を背に誇らしげに胸を張る。アランと一緒に降りてきた細目の男の子は、さらに褒め称えた。
「アランの作戦は完璧だ! いっつも成功する。今回はちょっと手を抜いたけど、石につぶされちゃえばもう……」
急に細目の男の子が言葉を止め、女の子と一緒に蒼白になる。まさか、とアランが後ろを向いた。
エドがゆっくりと立ち上がっている。ものすごい殺気オーラをまといながら、小石を払いのけた。
「てめぇらぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「に、逃げろー!!」
「待ちやがれぇぇぇ!!!!!」
一斉に逃げ出した子供達を捕まえようと、エドは怒りのまま走り出す。しかし子供達は不規則に曲がったりしてなかなか掴まらない。それには理由があった。
「どわっっ!」
この道には、子供達が仕掛けたたくさんのトラップがあるらしい。エドは度々罠に引っかかってしまう。
「やーいやーい、のろまのチービ!! もうギブかい?」
「あンの野郎、言いたい放題言いやがって!!」
エドは勢いよく手を合わせると、地面に手をついて檻を錬成し、子供達を閉じ込めた。
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