Shamballa


□胡蝶の夢
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 何もない。空虚感の溢れる空間。そこにただ立ち尽くしていた。


 ……いや、『何もない』ことは決して無い。


 光。ただ一面に、光が満ち溢れていた。
 けど、何故か空しくて、足りない何かを探し求めた。それは何だ。

 歩いているのか、止まっているのか、はたまた落ちているのか。




 自分が自分なのか。




 怖い。
 光ばかりで、何も分からない。まるで、闇の中にいるようだ。


 光。それは、希望の象徴であるのに。何故、こんな気持ちになる?



―   ―



 何も聞こえなかったはずなのに、振り向いた。誰かに、呼ばれた気がして。……いや、そう感じたかったのか
もしれない。

 だけど、そこには彼がいた。彼は微笑んで、何かを呟いた。聞こえなかったけれど、何故か、『聞こえた』。



― 気付いてくれたんですね……。



 その瞬間、心の中で何かが暴れだした。その想いには、逆らわない。

 今なら分かる。自分が走っている事も、ここにいる事も、

 足りない『何か』も。



「……っ、アルフォンス!!」



 やっと搾り出したその言葉を、彼に向ける。けど、彼は手のひらを向けた。
 俺を、その言葉でさえも、制するように。

 俺は足を止めた。自分の顔が歪んでいるのが分かる。
 けれど、彼は微笑んでいた。哀しみを隠すような、そんな笑顔。



― 来ちゃだめです。……その言葉も、向けるべき存在が貴方には居る。向けるべき存在は、僕じゃない。

「そんな事・・・!」



 俺は言葉を飲み込んだ。こんな事が言える立場ではない事を、俺が一番知っているから。

 怒りと悲しみが渦巻く。それは俺自身に向ける思い。



「なあ、戻ってこいよ。戻ってきてくれよ。今まで、お前にひどい事してきたのは分かってる。けどそれは―」

― ……分かっています。



 俺は顔を上げた。彼が、さとすように俺に言う。



― 貴方は弟さんの事を想っていただけだ。貴方は何も悪くない。それを分かっていたのに僕は……。僕のほうこそ、ごめんなさい。貴方を苦しめてしまって。



 彼自信も、とてもその事を悔いていたようだ。



「じゃあ、戻ってきてくれるのか?」



 嬉しさのあまり一歩、歩み寄る。しかし、彼は静かに首を振った。



「……なんで……」



 なんで、駄目なんだ。


 首を振る理由はどこにあるのか。俺には分からない。だって、彼はあまりに悲しそうな顔をしているから。

 否定する理由など、どこにも無いはずなのに。



「なんで、なんで駄目なんだよ?なあ」



 俺は縋るように彼に近付いていった。彼は困ったように後退りする。



― 近付いてきちゃ……

「俺が近付く事ですら、いけないことなのか?」



 彼は口を閉じた。



「触れる事ですら、いけない事なのか?」



 この手と彼の手は、何が違うのか。

 勝手な事だと分かってる。百も承知の上だ。けど、ここで足を止めたら、そのまま崩れてしまいそうで怖かっ
た。



「俺が、嫌なのか?」



 声が震えた。

 聞くことが怖くて。溢れ出てくるものを止められなくて。



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