Shamballa


□LOST MEMORY
2ページ/5ページ


 久し振りに踏む故郷の地を噛み締めるように、ゆっくりと歩く少年が居た。

 アルフォンス・エルリック。人体錬成をした後からの、五年間の記憶が全くない。


「ウィンリィ! ウィンリィ!」


 アルは急に走り始め、一つの大きな家に向かって幼馴染みの名を呼ぶ。その家の前には“AUTO MAIL”と書かれた看板が立てかけてある。
 と、その家から少女が出てきた。嬉しそうな顔をしてアルを見つける。

 ウィンリィ・ロックベル。アルフォンスより五歳年上の、機械鎧技師である。


「アル!」
「ウィンリィ、ただいま!」
「お帰り。修業、終わったんだ?」


 何気なく聞いた事だったが、アルは少しだけ顔を曇らせた。


「師匠、動けなくなったんだ。もう、教える事はないって言われた」
「……そうなの……」


 ウィンリィが顔を俯かせるのを見て、アルは慌てて言葉を探した。


「あ、でも、元気だから大丈夫だよ! ……そ、そう! 修業が終わったから、これから兄さんを本格的に捜し始めるんだ! その前に、ウィンリィやばっちゃんに顔見せようと思って」


 兄さん、という言葉にウィンリィは顔を上げた。何かを言いかけたが、それを飲み込み、笑顔を作る。


「そっか。エドを捜すんだ」
「うん。きっと見つけるんだ。きっと……」


 そんなアルを見て、ウィンリィの胸が痛んだ。




 エドは消えた。アルを錬成して、居なくなった。死んだと決まったわけではない。亡骸でさえないのだから。
 だが、生きているという保証もない。




 ふと、アルが何かを思い出したように声を上げると、いきなりウィンリィの腕を掴んだ。


「えっ!?」
「僕、すごい腕が上がったんだ! 錬金術の腕が!見せてあげるよ!」


 とても嬉しそうにはしゃぎながらアルは走り始める。それに引っ張られるようにしてウィンリィも付いていった。



.
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ