Shamballa
□stray
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「―っ!!」
研究所の仮眠室。俺はそこで眠ってた。額には汗がびっしょりで、シーツもぐしゃぐしゃになっている。
慌ててシーツをきれいに敷き直し、何事もなかったかのように片すと、洗面所の蛇口をひねった。
最近、ずっと嫌な夢を見る。子供の頃の記憶だ。
錬金術で遊んでたはずが、いつの間にか喧嘩になって……歳が近いこともあってか、小さい頃はそればかりだった。そして、どちらかが必ずこう言うんだ。「いなくなれ」と。すると誰も居なくなって、一人闇の中をさ迷い歩く。そんな夢。
小さい頃の「いなくなれ」なんて、重い意味も無いし、どの子供も使う喧嘩の定番だ。
だけど、今の俺にはその思い出すらも悪夢と化している。
ずっと帰れると思ってた。恐れるものなんて何も無かった。
きっとまた向こうの世界に戻れる。アルも生きてる。
その夢をロケットに託し、俺は夢を生きた。
ありとあらゆる研究所に足を運んだし、全ての時間を研究につぎ込んだ。
それでも、結果は足踏み状態。
いくら知恵を振り絞ったって、ロケットを宇宙に飛ばすまでの技術を見つけられない。錬金術も使えない。
「……このぉっ!!」
―パンッ
「……?」
「あっ……」
「どうした?エルリック?」
「い、いや、何でも」
上手くいかない。そのもどかしさに、俺は苛立ちと焦りを感じていた。
* * * *
早めに研究所を抜け出して帰宅すると、真っ直ぐに部屋に向かっていって机の上に紙を広げた。研究所から借りてきた、ロケットの設計図案だ。
灯りをつけてペンを持ち、設計図に向かう。だけど、気力が無くなってペンを置いた。
「…はぁ…」
一人になれば頭も回るかと思ったが、研究所で紙面とにらめっこしている時と何ら変わらない。ロケットに対する魅力もなくなってきた。
思えば、それからだ。あんな夢ばかり見るようになったのは。
あの夢を見るたびに、心の隅で認めて始めている現実を突きつけられる。
錬金術も無いこの世界からは逃れられないと。
アルは本当に生きているのか。大佐は。ホムンクルスは。ウィンリィやばっちゃんは。
「くそっ…」
親父も消えちまった。帰る術も分からない。
俺、一人だけ。
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