長く永い御伽草子

□百合と男
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 或る暗く茂った森の奥深くに、一輪の白百合が咲いておりました。

百合には友達がありませんでした。
日も射さぬ森の百合は、頭上高くに聴こえる
渡り鳥の噂話に耳を傾けていました。
蒼い海に煌めく魚達、絵画の如く美しい雲、
身体を優しく包み込む太陽の笑み。
百合は、わたしも見てみたい、と思いましたが、この地面を一度抜け出せば枯れてしまいます。

百合には、朝も夜も判らぬ、湿ってぬかるんだこの森が、世界の全てなのでした。
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