都稀×杏李

□☆02
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家の事で忙しくて、後手に回していたツケが来た。
お陰で、引退間際だというのに生徒会室で引き継ぎの作業をこなしていく。
早く終わらせたくて、黙って次々書類をめくっていく。
息をつきたくなった時、絶妙のタイミングで紅茶がおかれた。
誰が持ってきたかなんて、考える事はしなくていい。
この部屋には都稀と杏李しか居ないのだ。


「ありがと」


目線は文字を追いつつ礼を言う。
淹れたてで湯気が立ち上るカップを手に取った。
カップに口を着けたときに少し揺れた。
振り返ると、杏李が都稀の座っている椅子にもたれ掛かっている。

何かあったのかと思うが、杏李は窓の外を眺めていて表情が分からない。
少し傾げつつ、都稀はカップを置くとまた、書類に向き合う。


次の書類を手に取ったとき、しばらく黙っていた杏李が沈黙を破った。


「言うかどうか迷ってんだけどね、やっぱ言わなきゃなって思って。」


珍しく歯切れが悪い。
不思議に思いながらも、やるべきことは山のようにあるので、書類を眺めながら返事をした。


「うん。何を?」


軽かった。
まぁ、杏李のことだからいつもの様に些細なことだろうと勝手に解釈していた。
でも、その時はいつもと違っていて。

間を開けて杏李は言った。


「私、お見合いすることになった。」


突然の言葉にが抜ける。
手に持っていた書類がバサッと音を立てて落ちていく。


「・・・へ?」


驚きすぎて間の抜けた声が出た。
今まで無かったのだ。杏李にお見合いの話なんて。

ふり返ると、杏李と目線が合う。
なぜか杏李は嬉しそうに微笑むと、しゃがんで都稀の落とした書類を集める。
そんな姿を見ながら、驚きを隠せない都稀。


「・・・冗談?」

「まさか。」


即答で返ってきた杏李の言葉。
拾い終わった書類を束ねると、机の上においてくれた。
そのまま窓の外へ視線をやった杏李は呟く。


「・・・政略だよ。結婚まで決まってる。」

「っんな!?」


思わず立ち上がり、杏李の肩を掴んで無理矢理向き合わせる。


「お前、どうすんだよ!?」


結婚まで決まっている。
何かが、壊れていく気がした。

攻めるような言葉を言った都稀に驚いた顔をした杏李はすぐに穏やかな微笑みになって、
都稀の手に手を重ねた。


「どうにも出来ないよ。私は、財閥の娘なんだから。」


そう言って杏里は笑ったんだ。


(なんで・・・笑えるんだよっ!)


いつも杏李の笑顔を見ると、嬉しくなる。
でもその時だけは

心から悲しく思えた。




きみは笑顔ではぐらかした

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