都稀×杏李

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年が開け、受験や進路が決まっていき、もうすぐ任期が終わろうとしている。
あとは引継ぎや、雑用しか残っていなく、生徒会室にいたのは都稀と杏李だけ。


ただ黙々と書類を整理していた都稀にそっと紅茶を差し出す。


「ありがと」


顔を上げずに書類を見つめて放たれた感謝に少し寂しく思いながら、
どういたしまして。と小さく呟く。
真剣に仕事をしている都稀を見て、杏李の顔に影が入る。
トンと背を都稀の座る椅子の反対側にもたれ掛かる。
都稀はあまり気にせずに仕事を続ける。

しばらく無言の時間が過ぎる。
お互い何も言わず、都稀はそのまま仕事を続ける。
杏李は視線を落として口をつぐんでいたが、ポソッと無言を破った。 


「あのね、都稀。」

「何?」


搾り出した声は無音の部屋に響く。
返ってきた言葉は優しかったけど、視線は未だに書類に落とされていた。
でも気にせずに話し出す。


「言うかどうか迷ってんだけどね、やっぱ言わなきゃかなって思って。」

「うん。何を?」


やっぱり帰ってくる言葉は優しい。
パサっと紙が擦れる音がした。
どうやら書類をめくったらしい。

都稀の言葉から、少し考えこむように目を閉じる。
そして目を開けると、意を決したように上を向く。
目の前には大きな窓があり、外の景色が良く見える。
都稀は窓に背をむけているので、杏李の顔は見えない。


「私、お見合いすることになった。」


バサッと後ろから紙を落とす音がした。
次いで、間の抜けた声。


「・・・へ?」


振り返ってみると、都稀も振り返っていた。
驚いた顔をして。


――今日、初めてこっち見てくれたね。


心の中で微笑みながら、杏李は体を反転させ、散らばった髪を拾い直す。
その間にも都稀の視線を感じながら。


「・・・冗談?」

「まさか。」


都稀の問いに即答して紙の束を机の上に置く。
ふぅ、と息を吐くと、窓の外へ視線をやる。
視線は外を見つめたまま、杏李は呟く。


「・・・政略だよ。結婚まで決まってる。」

「っんな!?」


本気で驚いたらしい都稀はガタッと立ち上がり、杏李の肩を掴み、向かい合う。


「お前、どうすんだよ!?」


息巻く都稀をなだめるように、置かれた手に手を重ねる。


「どうにも出来ないよ。私は、財閥の娘なんだから。」


そう言って笑っておいた。
ちゃんと笑えていたかは・・・私には分からない。

ただ、目の前の都稀が悲しそうな顔だったのを覚えている。



今からきみに告白します

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