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□安眠のため
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「だったらこの腕はがすぞ」

「だめだ。あっ、きゃ…」

べりっと片腕を俺から離すと一気にバランスを崩した。

倒れる前に抱きとめて、腕の中に引き寄せる。


「帰る気になったか?」

「しかたがないから帰るぞ」

「しかたないって?」

「一護がどうしても帰って欲しそうな顔をしている」


どんな顔だ?

おまえのがそんな顔してる。

迷子になったみたいな顔。

俺がさせたのか。

ルキアを不安にさせたのか?

謝ったらきっと怒るだろう。

だったら。


「はやく帰ってはやく寝るか。抱き枕があればすぐに眠れるし」


含み笑いをすれば、途端に腕の中で暴れ出す。


「誰が抱き枕だ!」

「ちっこくて、やわらかくって、いい匂いのするおまえ」

「なっ…貴様、私を愚弄するのもいい加減にしろ」

「馬鹿になんかしてねえって。俺、おまえいないと寝つき悪いんだからな。俺の安眠のために抱き枕決定―」

「貴様がぎゅうぎゅう締めつけてくるから私はいつも目を覚ますのだぞ。だから抱き枕は嫌だ」

「そんなんじゃ離せません」

「ならば、せめてもうすこし力を緩めろ」


鬼気迫るような迫力で見上げられる。

ルキアにとっては重要なことらしい。


「努力シマス」


そう言えば、「さあ、帰るぞ」と袖を引っぱられる。


寝ている時のことなんて、努力でどうにかなるはずがないだろう。

夢の中でも離れることがないようにと、ルキアを抱きしめていたいんだ、俺は。


(終)
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