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□可愛い彼
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「はっきり言わぬか」
「…んでもねえ」
拗ねて顔を背けるから、私はやっぱり可愛いと思ってしまう。
「一護」
「なんだよ」
「こっち向け」
無視するように頑としてこちらを向かないから、両手で一護の頬を挟んで無理やり向かせた。
憮然とした表情。
だけど一瞬で変わる。
いや、変えてみせる。
「一護、好きだぞ」
途端に眉間は緩む。
緩みきった表情を何とかして平静を保たせようとするのも可愛い。
思わず笑ってしまうと、一護が怒ったように無言で私の腕を掴み歩きはじめた。
井上に視線を向けると、微笑って手を振られたので振り返しておく。
人のいない教室は風が吹いているわけでもないのに外よりも寒く感じて、濡れた制服から体操服に着替えている一護に抱きつく。
「どーした?」
「別に」
あたたかい。
どうして一護はこんなにあたたかいのだろう。
「ルキア」
「なに?」
「好きだ」
「どうした、突然」
「おまえがさっき好きって言ったから、俺も好きだって伝えたんだよ。なんか文句あるか」
「ないよ」と答えて一護の胸に顔を埋める。
そうしないと、また一護に“可愛い”と言ってしまう。
かっこいい一護も好きだけど、私だけに見せてくれる可愛い一護が好きだといつになったら気づいてくれるのだ?
(終)