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□残りはひとつ
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黒崎家のリビングでそのにらみあいは行われていた。
長男と三人目の娘。
二人とも一歩も引くことはなしに、相手を牽制し、隙あらば手に入れようとしている。
ダイニングテーブルにはそう大きくない片手で持ち運べる箱がひとつ。
開封されており、残っている中身はたったひとつ。
今、一護とルキアはどちらが最後のひとつを食べるかで争っていた。
「最後のひとつは私のだ!」
「バーカ。てめえは半分食っただろうが」
「うるさい。私はこれが気に入ったのだ」
ていっとルキアが箱に手を伸ばすと、すかさず一護がその手を掴む。
今度はそのまま両手を掴み合いながらのにらみあい。
もし、残っている最後のひとつが白玉であったなら一護はルキアに譲ったであろう。
もし、残っている最後のひとつがチョコレートであったならルキアは一護に譲ったであろう。
しかし、今残っているのは一口アイスであった。
初めて食べたそれをルキアはいたく気に入り、食べたがっていた。
チョコでコーティングされたバニラアイスの虜になっていたのである。
「あいすが溶けてしまうではないか!この手を退―けーろー」
「そう思うんならテメーが退け」
バチバチと火花が散る戦場にふらりと現れたのは双子の片割れ。
「うるさいなー。二階まで響いてるんだけど」
部屋で宿題をしていたのにとつぶやき、相手のせいだと罵りあう二人を無視して、テレビのリモコンを手にした。
ソファに身を落ち着けて、口の中で溶けていくアイスを惜しみながらもチャンネルを変えていく。
バラエティ番組に決めて観はじめること数分。
「夏梨っ!!」
二人の怒鳴るような呼びかけに、夏梨はとてつもなく面倒くさそうに首だけで振り返った。
「なに?」
「最後の一つだったのに…」
「勝手に食うなよ」
「アイスひとつで騒ぎすぎ。だからあたしが食べたんじゃん」
見ていられない子どものような争いの終止符を打った夏梨の言葉に二人は無言になった。
あまりにもくだらない理由でケンカしていたことの自覚はあるようで。
でも納得はしきれていないらしい。
「ルキ姉、可愛くおねだりしたら一兄が買ってくれるよ」
「ほんとか、夏梨!!」
しゅんとした顔が一気に期待の表情へと変わった。
「ほんと、ほんと。嘘なんかつかないから」
「夏梨、おまえ…」
「ほら、一兄。ルキ姉にどんな風におねだりしてほしいって言わないと」
一護にきらきらの眼差しを向けるルキアと、ルキアにしてもらいたいことを考える一護、そして五分後にはリビングを独り占めできると確信した夏梨であった。
(終)