不定期連載
□参
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手には途中でもいだ果物。
何が好きかなんて知らないから熟して食べ頃なのを幾つか採った。
山の恵み。
この恵みがなければ生きてはいけない。
だから誰もが大切にするこの山。
「よお、これ土産」
「何だ、供物か。珍しいな」
藍の瞳が果物に注がれる。
「好みしんねえから嫌いなやつだったら悪い」
「好きも嫌いもない。食さぬとも生きていけるからな」
「何食って生きてんだよ。…あっ、霞とかか?」
「貴様、私を一体何だと思っておるのだ。まったく…。清浄な気さえあれば生きていける」
「清浄な…気?」
周りを見上げて指し示す。
「木や花は水を吸い光を浴びて育つだろう。ヒトはそれらの恩恵を受ける。私もそのものを食すわけではないがこの辺りに漂う気を得るのだ」
「わっかんねぇ」
「こればかりは説明してもわからぬよ。私にだってよくはわからぬ。知らぬこと、できぬことのほうが多い」
少しだけ翳った。
眼差しが涙で歪んだ気がした。
見てはいけないものだと思って目をそらす。
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