御注文品/承り物

□バラ色の果実
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「こ、これだけかぁ!?」
「そう言うな、これが現実だ」
「ってもなぁ‥‥」

これは思った以上に悲惨だ。
驚きに目を丸くする葉。兄はその隣で腕を組み、難しい顔で現実を見据えている。
葉のプラスチック製の豚さんと、ハオの機能性を問わない星型の貯金箱は、畳にぶちまけられた小銭を静かに見つめていた。



森羅学園中等部2年C組・麻倉葉王と麻倉葉の兄弟と言えば、学園内のちょっとした有名人だ。
学校側の手違いで、双子なのに同じクラス、というだけでも多少の話題になるだろう。
しかしこの双子の共通点は、学年やクラスや遺伝子だけではない。
身長体重が何度測っても寸分違わず全く同じ。その上テストの合計点が毎回同じなのだ。
始めは教師もカンニングを疑ったが、当人たちはテストの点を競っているぐらいだし、間違える箇所も得意科目も全く違う。
そしてここまでで十分皆の興味を引いていた双子が、さらに人々の視線を集めてしまった共通点がある。

即ち、初恋の女の子まで同じだったのだ。



「まあ、とにかくコレで何とかしてみるしかねえか‥」
「なんとか‥‥ねぇ」

葉は畳の上の小銭をガサガサと掻き集めた。
どちらかの貯金箱に戻せば間違いなく喧嘩になるので適当な小銭入れに押し込んでおく。
ハオはパッとしない様子でそれを見下ろしていた。
山のように共通点を持つ双子だが、性格や服・小物・音楽の好み等には相違もある。
そんなセンスの違いが顕著にあらわれるのは、やはりプレゼントだ。
葉はなんであれ、心が籠もっているのが一番だと思うのだが、ハオはどうせなら少し高価なものを贈りたいと思っているらしい。このカッコつけ、と葉などは思うのだが、いくら気持ちが大事だといっても葉一人の所持金ではどうしようもなかった。
二人でもどうしようもなかった事は計算外だが、とにかく今回は兄と協力するより他は
ない。

「それじゃ、取りあえず行くか!」


葉は気合いを入れて立ち上がった。
ここで兄と額を突き合わせていても、女の子への素敵なプレゼントが思いつく訳ではない。恋愛経験などほぼ皆無な兄弟なら尚更である。
お互いに恋敵な二人も、今回ばかりは変な意地より彼女の喜ぶ顔を見る事が大切だと、珍しく意見の一致をみたのだ。
何より張り合っている間に見ず知らずの第三者に割り込まれでもしたらそれこそ堪らない。


ミステリアスな佇まいでクラスの男子の憧れの的、恐山アンナの誕生日が3日後に迫った日曜日だった。




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