御注文品/承り物

□バラ色の果実
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休日の百貨店は、買い物を楽しむ人々で溢れ返っていた。
まず最初にと二人が入ったのは、小綺麗で可愛らしい雑貨店だ。案の定、お客は女性である。
全体的にパステルカラーな雑貨店の片隅で、女の子達の合間に額を突き合わせる双子は明らかに目立っていた。しかしプレゼント選びに夢中な二人は全く気にしない。

「あ、このヘアピン可愛いな!」
「少し飾りが大き過ぎないか?葉ちょっと‥」
「うーん‥‥確かに邪魔かもなぁ」

二人はヘアピンを装着して仲良く鏡を覗き込んだ。
わざわざ試着してまで、熱心にプレゼントを選んでいる。

「あ、葉見てこのピアス可愛い!」
「おお!でもこれ色がこれしかないんか‥」

少女趣味の兄弟なのか、はたまたボーイッシュな姉妹なのか。
そんな周囲の好奇心をひたすら集めつつ、そうとは知らない二人はやがて雑貨店を後にした。



「あ、ハオあれ!」
「ん?」

続いて二人がやってきたのは、服やバックや細々した小物の店である。
ちなみに言うまでもなく女の子向けだ。

「あ、アンナっぽい!」
「確かにああいうワンピースよく着てるよな!」

ここで試着を始めたら今度こそ危ないところである。
しかし幸か不幸か、ウィンドウに並べられた商品の値段に、試着の間もなく双子は絶句した。
これがとにかく、高いのだ。

「アンナもやっぱ、こう言うの欲しいんかなぁ‥」
「そりゃ貰えるもんなら欲しいだろうなぁ‥」

たとえ興味が無くてもいらないという女の子はいないだろう。可愛い服やバックなら、いくらあっても困るものではないのだから。
愛しいあの娘を思いつつ、双子は仲良くはぁ、と溜め息を吐いた。
しかしこればっかりは仕方ない。お金が無い分気持ちでカバーとは弟・葉の談である。


「取りあえず、メシでも喰うか」
「そうだな」

気を取り直した双子は、安いファーストフードの店に向かうべく並んで百貨店のドアを潜った。
空調の効いた店内を出ると、夏の熱気がアスファルトからもうもうと立ち上ぼるのが見えるようだ。
ハオは言わずもがな、葉も、一般的な男子高校生の平均よりは少しばかり髪が長い。黒髪に日光は容赦なく降り注ぎ、双子は逃げるように店に飛び込んだ。
昼食には少々早い時間なせいか、客は疎らで店内は閑散としている。間違いなく一番安いメニューを頼んだ双子は、見通しの良い窓際の二階席に並んで腰掛けた。

「あー、生き返るー」
「あー、同じくー」

ずずーっと、双子は仲良くドリンクを啜った。ちなみに二人ともお茶である。
じっとりと滲んでいた汗が引いていくのを感じながら、葉はハンバーガーに齧り付き、ハオはモフモフとフライドポテトを摘む。
‥‥と、ふと視線を落とした葉の目に、通りの向こうに貼られた巨大なポスターが飛び込んできた。



「あ、あれは‥‥!!」

ポスターが貼られているのは、音楽ソフトから楽譜、楽器と楽器用品を総合的に扱うミュージックショップだ。
『Bob』『ニューシングル』『NOW ON SELL !!!』という殺人的に魅力的な単語の数々。
葉は引き寄せられるようにしばらくポスターに見入っていたが、やがてハッと我に返った。今日は大切なプレゼントを探しにきたのである。
もちろん、Bobも大好きだ。しかしニューシングルは絶対に今、買わなければならないものではない。初回限定版なんて企画もないようだから、極端な話中古で買ったっていいくらいだ。いいくらいだけどいやしかし‥‥


うおおおお、とテーブルに突っ伏した弟を、ハオは冷めた目で見つめていた。
向かいのポスターにはとっく気付いていたので、葉の考えていることは手に取るように分かるのである。
ちっちぇなあ、とひとりごち、葉のポテトを一本頂いた後、ハオは欲望と自制心の狭間で苦しむ弟の頭をゴツンと小突いた。

「おぶっ!」

お陰で葛藤は中断されたが、代わりに葉はケチャップの海に鼻から飛び込んでしまう。
物凄く鼻血を出したみたいな凄惨な顔に向かい、ハオは呆れた声で言った。

「そんなに気になるなら見てくればいいだろ」

「‥いいんか?」
「まだ時間はあるしね」

葉はパアアアッと表情を明るくした。
しかしべったり付着したケチャップのお陰で、いまいちアレなイメージが拭い着れない。



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