御注文品/承り物

□バラ色の果実
4ページ/5ページ

それから3日後。

待ちに待った恐山アンナの誕生日がやってきた。
これを期にアンナに告白しようという不届き者もチラホラ見受けられたが、初対面ではプレゼントを突き返されて終わるのがオチである。
その点双子はアンナの幼馴染みで、小学校の頃からの付き合いだ。無残に突き返される事はないだろう。しかし裏を返せば小学生の頃からの片思いということでもある。

「き‥来たか?」
「うん、今日は一人みたいだ」

さて、放課後の昇降口で、双子はアンナが来るのを待ち伏せていた。良く言えば慎重、悪く言えばチキンな二人である。呼び出すなんて真似は到底出来ない。
やがてやって来たアンナは、いつもの鞄の他は何も持っていなかった。下心込みのプレゼントは、やはり全て突き返してしまったのだろう。
ガラにも無く緊張でガチガチの双子は、極力偶然を装って廊下に出た。

「あ、あああアンナ!」
「ひっ久しぶり!」

「‥‥今朝会ったじゃない」

もちろん偶然など装えない。
当のアンナに的確なツッコミを返され、双子はさらに挙動不審に陥りつつも、何とか小包を取り出した。

「こ、ここここれよ、良かったら!」
「あ!あと僕ら今からアンナに愛の歌を――」
「いらない」

ハオがピキンッと音を立てて動かなくなる。その様に首を傾げつつ、アンナはひょいっと小包を取り上げた。
この双子は何時だってどこかしら抜けているのだが、今日は特におかしい。何しろ第一ボタンまでみっちり閉めているのだ。明日は雪が降るに違いない。
とにかくアンナは幼馴染みからの誕生日プレゼントらしい包みを、ビリビリと破いてみた。
気が気でない双子は小刻みに震えていたが、アンナは気にする風もない。

「‥‥あら、可愛い」

中身を見てぽつりと漏れた声に、双子は心から神に感謝した。
キリキリとネジが巻かれ、流れ出したメロディはさらに彼女のお気に召したようだ。
じっと陶器のリンゴを眺めていたアンナは、ふっと表情を緩めて言った。

「ありがと、貰っとくわ」

そしてリンゴを丁寧に箱に戻すと、見知った友人から貰ったのだろうプレゼントと一緒に鞄にしまい込む。
「それじゃあ」と短い挨拶を残して、アンナは昇降口を出て行った。

「た、助かった‥」
「良かったみたいだなぁ」

その姿が見えなくなると、緊張の糸が切れた双子はその場に崩れ落ちるように座り込んだ。
アンナが僅かに浮かべた笑みを思いだし、葉がふと呟く。

「‥‥もしかして、脈アリ?」
「かもね。次は勝負だな、葉」
「おう、ぜってー負けねえ!」




さて、そんなやり取りが行われたとはまるで知らないアンナは、一人夏の通学路をスタスタと歩いていた。
ふと頭をよぎるのは、双子から贈られたオルゴールに刻まれた言葉。

「まあ、アイツら馬鹿だから気付いて無かったみたいだけど‥」

取り出した小箱に知らず笑みが零れる。
楽しげに笑いながら、アンナは友人から貰った手作りのクッキーを一つ摘んだ。
オルゴールに刻まれていたのは、数あるリンゴの花言葉の一つ。




“The love that was chosen”
「選ばれた恋」




さあ、紅いリンゴは誰の手に?





終わり
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ