御注文品/承り物

□4月のうさぎ
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「へ………?」

「マッチ、あんた‥」
「………なにしてるの」

正確には、止まったのではなくアンナが「止めた」のである。呆れ返ったマッチのチームメイトの姿を見とめ、アンナは式神を引っ込めた。別にやっても良かったのだが、万が一喧嘩になるとめんどくさい。勝てるけど。

「助かったー!ありがとカナちゃんマリちゃん!」
「アタシらは何もしてないし。つうかそもそもあんたが変なちょっかい出したんでしょ」
「マリも……そう思う」
「ええっ!酷くないそれ!!」
「酷いも何も事実じゃない」

幸い思ったよりも二人はまともで、四面楚歌のマッチがおとなしくなるのに時間は掛からなかった。ハオへの忠誠心が厚いカナは何か思うところがある様だが、喧嘩を売ってくるような素振りはない。
それどころかカナはやれやれとアンナに向き直り、多少うんざりした様子で言った。

「迷惑掛けたみたいね」
「別に…………迷惑だけど」

やはり年長らしく、他の二人の面倒を見ようという気負いがあるのだろう。
アンナが正直に答えると、カンナは小さく嘆息してマッチに視線を向けた。

「マッチ、こいつにケーキでも奢ってやりな」
「えー!なんでよ!!」
「こいつ敵に回すと面倒だし、ハオ様だって今度はきっと怒るよ」
「………はーい」

あたしの意見は?と心底アンナは言ってやりたかったが、考えてみれば他に行くところも無い。つっかかってきたのは向こうだし、この歳思いっきり愚痴を聞かせてやるのも一興だろう。

「言っとくけど、中途半端なモン出したら承知しないわよ。そうね‥‥最低でも5,000円くらいは予算見てもらおうかしら。もちろんアタシの分だけで」
「なっ、ちょっと助けてマリちゃんっ……て何で目ぇ逸らすの!!」
「ほら、決まったんだからさっさと行きましょ」
「いやああああ!!」

そうと決まれば、とアンナはマッチを引きずって歩き出した。
前から目を付けていた喫茶店があったのでちょうど良い。


***



「ふむ‥‥ならまずは今日の葉の行動を一から洗いなおしてみるか」

という蓮の一言に促され、葉とチームTHE蓮一行はスタジアム方面に向かう一本道をうだうだと歩いていた。葉が散歩に出たのは数時間前のことなので、まだアンナに誤解を招いた「何か」に関する情報が残っているかもしれない。
何も無い一本道から辺りが賑やかになってきたところで、葉は一度立ち止まって周囲を見回した。

「えっと、今朝はまん太と一緒だったから、一度あの辺りの出店で休憩したんよ」
「ああ、あそこにあるヤツか」

葉の示した辺りには、タコヤキやタキソバやその他縁日で出会えそうな出店とベンチが幾つか並んで立っている。
店番のパッチ族は知らない顔ばかりだったが、どう見ても青年〜中年の男性ばかりで、アンナを怒らせる要因はなさそうだ。
もしかすると、葉が知らないうちに女の子と相席になっていて、それをアンナが見間違えたのかもしれない。一応確認しておこう、とホロホロがその中の一人に近づいて声を掛けた。

「あのー」
「ヘイ!いらっしゃい!」

客と見て、パッチ族の目がキラリと輝く。ホロホロは少し言いづらそうに用件を切り出した。

「いやその‥‥‥今朝ここらに一人で来てた女の子とか、見ませんでした?」
「女の子ですか……いえ、見てませんが」

そうですか、どうも……とホロホロはお礼を言って離れようとしたが、パッチ族のすがるような視線がそれを許さない。





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