御注文品/承り物

□4月のうさぎ
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動けないホロホロから更にすがるような視線を向けられて、蓮は低く唸った。

「‥おい、タコヤキ4箱だ」
「へい、まいど!」

どこからともなく取り出した財布からあっさりタコヤキの代金を支払う蓮に、他の3人は感嘆のため息を漏らす。
チョコラブは今のところ収入が無いし、葉とピリカはそれぞれアンナとピリカに財布の紐を握られているので勝手なことはできないのだ。こんなときの蓮は本当にカッコいいなあと思いながら、葉は遠慮なくタコヤキを頂いた。

「あー蓮、マジでさんきゅ!」
「ふん、全く軟弱な連中だ」

言いつつもパッチのタコヤキが嫌いではないらしい蓮は、早速モフモフと頬張っている。
パッチ族の商品は何でもパチくさいけれど、食べ物に関しては苦情を聞かない。やはり衣食住についてはパッチ族も気を遣っているのだろう。
そんなことを思いながら顔を上げた葉は、スタジアム前の広場でふと足を止めた。

「ああ、確かあの後、ここでリゼルグとばったり会ったんよ」
「リゼルグ?」
「おう。なんか知らんけど、買い物に来てたらしくて」

とは言え話をしたのもほんの数十秒だし、いくら美少年だと言ってもアンナがリゼルグを女の子と勘違いする事はないだろう。
チョコラブは周辺を見回してみたものの、やはり手がかりになりそうなものは見えない。

「それからどうしたんだ?」
「後は、川の方でハオとオパチョに会って‥‥そんくらいだな」

葉の記憶もその程度、やはりアンナが怒った原因は分からないままだ。
一体何がアンナを誤解させてしまったのだろう。4人は頭を抱えて唸った。しかし誰の頭にも妙案は浮かばない。
と、その時、

「あれー、みんなこんなところで何してるの?」

足元から間延びした声が聞こえた。見ればいつのまにやら4人の足元に、紙袋を持ったまん太が立っている。
まん太は不自然な位置で立ち尽くす4人を見て首を傾げていた。

「葉くん、また散歩?」
「いや、違うけど‥‥そういうお前も何してるんよ?」

葉の言葉を受けて、まん太は持っていた紙袋を揺らして見せる。
そういえば買うものがあるからと言って、今朝の散歩の途中で分かれたのだ。すっかり忘れていた。
まだ買い物してたのかー、と少し呆れて言えば、まん太も少し照れた様子で笑った。

「うーん‥‥すぐ終るつもりだったんだけどねぇ。そう言えば葉くんはあの後すぐに帰れたの?」
「あの後?」
「ほら、一緒に川原を歩いてたら、ハオが――」
「あああああああっ!!それだ!!!」

その途端、葉は経緯をすっぱり理解した。アンナとの喧嘩がショックですっかり忘れていたのだが、今朝の散歩では確かにそんな珍事に遭遇していたのだ。

「やべぇ‥‥早くアンナに話さねぇと!!」
「な、待てよ葉!」
「一体何があった?」

驚きながらも食い下がってくるホロホロと蓮には悪いが、最早そんなことには構っていられない。
アンナの誤解は仕方ないかも知れないが、葉にとっては最悪の二文字だ。

「スマン、詳しい話はまん太から聞いてくれ!じゃ!」
「僕!!?」

蓮たちとまん太の困惑した声を後に、葉は大慌てで来た道を駆け出していた。


***



「ふーん、あの葉くんがねぇ‥‥で、ショックなんだ?」
「別に、ちょっと頭にきてるだけよ」

葉がアンナを探して駆け出したちょうどその頃。
高級とは言えないが、そこそこお洒落なカフェにやってきたアンナと花組は、わりと平和なガーグズトークに花を咲かせていた。
アンナはただ愚痴ってやるだけのつもりだったのだが、意外に聞き上手なマッチのお陰ですっかり恋愛相談と化している。
その内にアンナがだいたい話し終えた頃、それまで黙っていたマリがポツンと口を挟んだ。

「マッチ、マリ‥‥何だか嫌な予感がする」
「やっぱり、マリもそう思う?」
「え、なに、どーしたの2人とも」

心なしか青ざめた様子のマリにカナも同意する。どうやら分かっていないのはマッチとアンナだけらしい。
アンナは二人の様子にふと思い立って言った。

「もしかして、葉の浮気に何か心当たりでもあったの?」

その途端、さっと目を逸らすカナとマリ。しかしその行動は、ほとんど肯定と変わらない。

「実は‥今朝の事なんだけどね」

アンナにじっと見つめられ、カナはタバコの煙と一緒に話し始めた。




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