ひより

□純潔リリィ
1ページ/1ページ


やはり、幾許かの愛の言葉と温かな思いだけでは若い彼を繋ぎとめておくことは無理なのだろうか。今までぐるぐると巡らせていた、彼への思考に意図せず溜息が零れた。
私とヒュースケン君の間には性別以上の大きな壁がある。年だ。私は見ての通りの老いぼれだから、もう恋い慕うことくらいしか出来ない。手を繋いで笑いあうこと、一緒にお茶を飲んで過ごすこと、そのくらいしか私には出来ない。では彼は?と考えた時に、私の気分は落ち込む。若いからだ。彼が若くて活発な青年だから、私との生活ではもの足りないのだ。何が?決まっているだろう。だから彼は、密かに外で女性と会っているのではないか。私では得られない何かを得るために会い、そして私の元へ帰ってくる。帰ってきてからはのほほんと、お茶を飲んで笑い合う時間だ。ひょっとしたら彼にとって、私との時間は仕事合間の暇つぶしくらいにしか思われていないのではないか、とすら疑ってしまう。彼にとって私は何か。そんな答えの見えぬことを一人悶々と考えあぐねる気は毛頭ない。聞く気もない。年寄りは保守的になりやすい。自分の経験してきたことが適用されなかったりすると特にだ。こんなにも、こんなにも恋焦がれたことが人生において一度もないから、本当に彼が今までの誰よりも好きだから、どうしたらいいかわからなくなる。この気持ちはおそらく若いときに体験したそれに似ている。そのときと違うのは私の年と考え方と行動力だ。それだけ違えば若い頃とは末路は違ってくる。だからこの現状は未経験だ。悩みというものはいくら年を取っても消えることはない。人間なんてそんなものだとも思うのだけれど。
ふと、開け放たれた障子から冷たい空気が寄せられた。異常に対して振り向いてみると、若い男の姿が会った。ヒュースケン君だった。ただいま帰りました、とヒュースケン君は微笑んだ。

「何度も呼んだんですよ?」

「ああ、すまない。……ちょっと、考え事をしていてね」

「ああ、近いうちにある謁見のことですか?」

「そんなところかな」

上機嫌なヒュースケンにつられて笑ってみた。しかし顔の筋肉が思ったよりもあがらない。元気がない、年寄り臭い顔になってはいないかと少し心配になった。そんな心情には気がつかないであろうヒュースケン君は、にこりと笑って私の隣で正座を崩したような座り方をする。そして私の手を取って、私の一番大好きな、ふわりと優しい笑顔で呟いた。

「僕は、ハリスさんの味方ですから」

彼の言葉と今までの思考が自分の中のどこかで噛みあって、目の奥から何かこみ上げてきた。たまらなくなって、目が潤む前に服で隠れたヒュースケン君の鎖骨に額をぶつけた。わ、と小さく驚いたヒュースケン君は、私を引き離そうとはしない。私が何もしないと、知っているからだ。その行為にも少し泣けてきて。
どうしたらいいか、わからない。だからせめて、今が変わらないことを望みたい。
決して良くはない今に何を望むのだろうね、私は。





純潔リリィ
(せめて私の前だけではそのフリをしていて)





実際のヒュースケンさんは女好きだったと知ってショックを受けて、ずっと考えてたヒュスケ浮気ネタ。捏造しまくり。
いやでも日和のヒュスケはほんとにそんなことないと信じたい。
2009.09.07


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ