ひより

□長すぎる物語はつまらないもの。
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今そこでね、はらりと天国の花が散ったんだ。嗚呼、天国でも悲しいことってあるんだね。忘れてたよ。
そう呟く大王の背に向かって、僕は歩を進めることを促した。
大王は笑って膝と猫背を縦に伸ばして言うことを聞いてくれた。天国の巡回の再開だ。

仰げば澄み切った偽の空だった。僕の故郷とはなかなか違う、美しいものであることは確かだったけれど。
ふと大王が零した言葉を反芻してみたら、非常に味わい深くて百年単位で生きている僕でさえ到底理解しきることは不可能に思えた。きっと人間にはもっとわからないのだろう。

「鬼男君、おなかすいたよ」

「巡回終わったら飴を一個支給してあげますから我慢してください」

「何それ、労働条件過酷じゃない?」

「良心的なほうですよ」

納得がいかないらしく、大王は口を尖らせて僕を睨むがいまいち迫力に欠けた。しばらくその状態で歩いて、つんと視界を元に戻す。とてつもない既視感。前回も、前々回も、こんなやり取りをしたような。
広大な天国を歩くのは、ひ弱な大王には辛い仕事だった。
執務室についた途端に椅子にもたれこんで、おおよそ仕事をするような姿勢ではない。お行儀の悪い格好で飴を欲してもあげ
るもんかと大王のじとりとした視線を無視した。

冥界はいつもいつも、こんなことの繰り返し。




長すぎる物語はつまらないもの。
私が死んで、それでおしまい。
(生憎彼に終わりなんてないので、以下ずっとこんなんです)




2009.11.19


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