ひより

□私の通る道は、
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これはもう仕方のない現象であると割り切った方がいいのだと思った。今現在のそれは果たして何度目なのかよく覚えていない。いや、この気持ちは確か三度目で、こんなにも辛いのはここに来てから初めてなのだけれど、覚えてる自分が気持ち悪いから覚えていないことにしておきたい。
自分の為に一度。あと仲良しだった彼の消失に一度。今回は大好きなあの子がいなくなるから。
いつもきっかけは不定期にやってくる物事だからオレにも制御は効かなかった。しかしなんと、今回は事前に知らされた。まあその事実の予測はずっと前に立っていたけれど。例の現象のを克服するための心構えか、それとも、今思いっきりやっとけってことなのだろうか。オレが前者ができるほど強い奴だったらどんなに楽か。だからオレは後者を選んだ。

「ねえ、鬼男君」

「はい」

ちょっと弱った声を出してみると、いつも見向きもしない鬼男君がオレの方をちらりと見やった。彼なりにオレを気遣ってくれているのかと思うとなんだか胸がきゅう、となって苦しい。そんな青臭い関係はもうとっくに卒業したと思っていたのだけれど、どうやらオレの勘違いだったらしい。
オレは柔らかく上げた口角を鬼男君に見せ付けた。

「何か、今日は疲れちゃったよ。気苦労って言うのかな。悪い奴が多くなかった?」

「ゴメスほどではなかったですけどね。確かに多かった気がします。……じゃあ、今日はお邪魔しないことにします。ゆっくり休んでくださいね」

やさしさの覗く口調。お母さんみたいだねと前に言ったら怒られたから言わないけれど、温かくて何だか現象がフライングしそうで慌てて俯いた。

「うん、ごめんね。明日からまた頑張るから」

「はい」

短く返事をして、部屋から出る扉を開けてくれた。
鬼男君とはそこでお別れ。


平静を装って自室の扉を閉めて、閂をした。扉に背を向けてみると、一人では持て余してしまうほど広い自分の部屋。その奥にある、大きな寝床。幅も長さもこんなに要らないでしょうと思わず突っ込みたくなるほど大きくて、厚手だ。しかし今回は好都合。だって防音は出来たら出来るだけいいのだから。

急いで帽子を脱ぎ捨てて、布団の中へ飛び込んだ。白い掛布を出来る限り自分の身体から離したくなくて、寂しさをこいつに吐き出したくて、縮こまって布団に包まった。
そして、もうすぐそこまで来ていた喉の熱さを一時抑えるように息を吸って。
じわりと、顔に触れている部分の生地が濡れた。
咆哮と言っても差支えがない。汚く、容赦もなく、おそらく三度目の涙腺の決壊を、オレは布団相手に無様に晒した。
最期に笑って送ってあげる為にこれはきっと必要なことで、きっとこれで後悔しなくなるのだ。
きっとそうだと信じて、オレは暫く布団に甘え続けた。





私の通る道は、いつも暗く、
進む程に痛みが増して
きっと辛い最後だけが待ってるんだよ
でもね、後悔はしてないの
(……いつもそうだったから、そうだと思ったのだけど。)



2009.11.19


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