ひより

□愛していた。
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好きだよと言えたらどれだけ楽かと、考えるだけでいるのは実に生産性がないと思う。オレの性分からしてもあまり好きでは無いが、こればかりはどうしようもない。
何せ相手はあの藤田。性別の壁以上に、奴との関係性がオレを苛む。
ああ、どうして親友になんてなっちゃったんだろうなあ。

「それでな、ケンジ。あの子オレになんて言ったと思う?」

「知らね」

「犬見て逃げるような弱虫は男じゃないって。ひどくねえ?」

「だな」

ぼやく藤田を見ている。話の内容は聞きたくないので、最後のところだけしか聞いてない。

今日、藤田は隣のクラスの女子に告白した。ずっと話には聞いていたけれどまさか告白するなんて思っていなかったので、報告を聞いた直後は内心ドキドキしていた。まあ、上手く行かなかったのがオレにとって幸いとなったのだが。
藤田はオレと違って普通の嗜好の持ち主なので、こういうときは本当に辛い。藤田はオレのことなんかそんな風に見てくれてないじゃないかとオレの心にブレーキがかかってテンションがぐっと下がる。藤田はそれを知ってか知らずか、オレに逐一報告をしてくるのだから腹が立つ。

今日あの子と3回もすれ違ったんだ。今日自販機の前であの子を見かけたんだ。可愛かった。あの子が。あの子が。

ずっとムカついていた。しかしそれも今日で終わるかと思うとすっとする。今から藤田はオレだけに目が向いてくれると信じている。少なくとも嫌われるようなことはないだろう。
藤田は、未だにぶつぶつと愚痴を零していた。ふと意識して奴の顔を見てみると、沈みかけの真っ赤な夕日に照らされていて何だかぞくっとした。
オレに何か言われた時以上に落ち込んだ表情は、どこか静的で絵画のそれのようにさえ見える。目を細めて再確認しても、その印象は拭えなかった。
途端、藤田が遠く思えて。

「藤田」

「ん?」

短く呼んだら、何の気もなしに藤田はオレを見やる。
迷わず手を伸ばし、藤田の肩を掴んで引き寄せた。

「え、何、ケンジ?」

ぱっと目を開き、オレの腕を凝視する藤田。
変わった表情と触れられたことに安心して、オレは両腕を藤田の背に回して顔を奴の首筋に埋めた。
藤田は事の展開が速すぎて頭の中がおっつかないようで固まっている。そんな反応も好きだと言ってやりたい。

「なあ、ケンジ!?」

ああ、けれど。

「……藤田あ」

「……何だよ」

「オレたち親友だよな」

「ああ」

「オレ、お前のこと好きだよ」

間を開けて、オレもだよ。と不思議そうに答える藤田。分かりきってた意味合いにまた目を細めた。
早く離せと喚く藤田を無視して、渾身の力で抱きしめた。





愛していた。
それが許されないとしても、
それでも君を愛していた。
(どうせ好きだっていってもしかたないなら、
いっそ壊れてしまえばいいのに。)



2009/12/20


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