駄文(カイルの過去話)

□カイル/幼少・レルカー時代
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ある夏の夜、籠に入れられた赤子が川辺に流れついているのを町の子供らに発見された。

「カイル」という名前と思われる刺繍の入った異国風の産着を着た赤子は金髪に青い目をしており、ファレナの民とは異なった顔立ちであった。
町の人々は捨て子の身内を探そうとはしたが、レルカーにはここ暫くは異国の旅人などの出入りもなく、 全く手がかりもない状態では親探しは諦めざるをえなかった。
捨て子を拾った子供らの一人、ヴォリガの家が裕福だったため赤子はしばらくはヴォリガの家に預けられた。
並行して赤子の引き取り手探しが始まり、異国の外見から最初は難航したものの、かわいらしい笑顔を浮かべるその子供を見て、レルカーの民は警戒心を解き、最終的に子供のいない老夫婦に引き取られることが決定した。


ヴォリガは数日間、弟のようにかわいがった赤子を手放すことを渋っていたが、自身も親に養われる10歳の子供の身ではどうにもならず、赤子が引き取られることを承諾したのだった。

しかし数年後、カイルを引き取った老夫婦は相次いで亡くなってしまい、また別の家へ引き取られて行くことになった。
しかしそこでも商売が失敗する、家人が病気になるなど不幸が重なりカイルを手放したいと町に打診してきたのだった。


偶然とはいえ引き取られた家で不幸が重なることがあり、次にカイルを養子に引き取ろうとする人間は現れず、ついにはデビアス卿が形だけ運営している施設に預けられることになった。


ヴォリガは18歳になっていた。他の町での修行を終えレルカーに戻り、家を継いだばかりで慌ただしい毎日を送っていた。
ある日、8年前自分が川から拾いあげた子供の噂を聞きつけ、気にかかり、様子を見に行くことにしたのだった。


カイルはデビアス卿が形だけ運営する施設に入れられていた。
この領主は面倒なことには一切関わらない主義でこの施設にも運営資金を出しているだけで、いかにも怪しい男が一人、古びた家に数人の孤児と暮らしていた。
引き取り手のない孤児が暮らすこの施設は最低限の食事だけが与えられるだけの劣悪な環境で、しかも入った子供がいつの間にかいなくなることがあり、人買いに売っているのでは…という噂もあった。
しかしレルカーの人々は国の混迷しているこの時期に、身寄りのない孤児達に関わる余裕もなく、行方を追及するものもおらず、そのまま放置されている状況であった。
痩せて読み書きもできず、素行が悪かったり、病気がちな孤児が数人暮らしているその孤児院に自分が拾い上げた子供が入れられているということは大いにヴォリガを憂いさせた。


「ヴォリガのおっちゃん!久しぶりー!」
施設の前の道他の孤児達と遊んでいたカイルはヴォリガを見つけ微笑みを浮かべて駆け寄ってきた。
数年ぶりに再会したカイルは8歳になったとしてはあいかわらず小柄で女の子と見間違えてもおかしくないない顔立ちをしている。そして見事な金髪に青い瞳。

「俺はまだ10代だぞ、おっちゃんて言うなっていつもいってるだろ!!」
カイルの頭を軽くこつきながら、ヴォリガはおどけてみせる。

「ちゃんと飯は食ってるか?困ったことはないか?」
ヴォリガはカイルに聞きながら、観察をした。
健康そうなカイルの様子に一瞬安心したものの、何かがひっかかる…

明らかに他の数人の孤児たちよりカイルは顔色がよく身綺麗にされている。ヴォリガは施設の管理人が子供に悪戯をしている、人身売買に手を染めている、などの噂を思い出し、ヴォリガは不安になった。

『とにかく確かめねば…状況によっては今の俺ならカイルを引き取って育てることもできる…』 ウ゛ォリガは考えた。

思いたったヴォリガは孤児の中ではの比較的しっかりとした10歳くらいの少年に施設の管理人の部屋へ案内させ、面会を申し入れた。
しかし管理人には来客中であると断られてしまった。ドアが閉まる瞬間、見慣れぬ商人風の男とテーブルの上の金が目に入った。

『…?』
孤児院には似つかわしくない大金をヴォリガは不審に思った。
そこに後にいる少年が囁いた。

「あいつカイルを売るつもりだぜ。」
嘘をよくつき、盗癖がひどいといういわくつきのこの少年の言葉だが、ヴォリガには納得がいった。
この施設では食事も満足に与えられず、それで少年は嘘をつき、盗みをするのだということがヴォリガはすぐに理解できたのだ。今の少年の言葉には嘘はない。


『とにかく止めなければ!!』ヴォリガは強引にドアを開け放った。
部屋に入るなり管理人と商人に向かってヴォリガは言った。
「ちょっと待て、おまえら子供を売り買いするつもりか!!」

「ちょっとなんですか、いきなり?何ですかこの人は?」

「いきなり失礼じゃないかヴォリガ!!いやこの人は関係ありませんから、どうぞ気になさらず」

「関係ないってことはねえだろ、昔カイルを拾ってきたのは俺だぞ、だいたい子供を売るなんぞ言語道断だ!!」

「ちょっと何をやぶからぼうに…だいたいあんたは子供の頃に拾ってきただけで、カイルの身内でもなんでもないじゃないか!」

「ちょっと待って下さい。」
商人が管理人とヴォリガの言い合いに口を挟む。

「ヴォリガさん…といったね。少し冷静になってお話ししませんか
。まず子供…カイルの件ですが、すでに契約は成立しております。したがって今のあの子の主人は私です。
そしてファレナ女王国ではそもそも人身売買は違法ではありません。」

「何を!!」

「まあまあ。あなたも商人のようだ。ご存知だとは思いますが、ファレナでは闘技奴隷などのように人身売買は違法ではありません。出るところに出れば、私の言い分が支持されるでしょう。」

「ぐっ…」
ヴォリガが押し黙ったところで、商人はたんたんと続ける。

「そこで…取引をしましょう。あなたは私からあの子を買えばいい。」
そういってすました表情で算盤を弾いた。

「なっ、そんな…」
ヴォリガは真っ赤になっていた。

「無理なさらなくても結構ですよ。これでも勉強させていただいているのですがね。あの子供のような金髪・碧眼の容姿なら闘技奴隷にするより色町に連れていけばこの倍以上の値段がつくのですがね。」

「ちょっと、あんたそれじゃ俺が売った値段どころじゃないじゃないか!?」
管理人が口を挟んだが商人は冷静に返答した。

「あなたはその値段で手を打ったはずだ。」

「…しかしっ!!」
「うるせえっ、口を挟むんじゃね
えっ!」
ヴォリガは管理人を殴り倒した。その光景を見ている商人に動揺はない。終始落ち着いている。

『こいつはベテランの商人だ。くやしいが、家を継いだばかりの駆け出しの俺ではかなわねえ。』
ヴォリガはを激情を抑え、商人と話を始めた。
そして不本意な形ではあったが、カイルを孤児院から連れ出したのだった。

孤児院から連れ出したカイルは8歳という年齢を考えれば状況を理解してはいないだろう、不思議そうな顔をしている。
しかし手を伸ばせば嬉しそうにヴォリガの手をとった。

「今日からおっちゃんといっしょに暮そうな。」

「うん!」
とても嬉しそうなカイルの返事にヴォリガはつないだ手に力をこめて家路へと向かった。


end
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