駄文(カイルの過去話)

□カイル/幼少レルカー時代2
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ヴォリガは子供の頃、「家を継ぐ」というレールを引かれた人生に反発を感じ、しばしば家を抜け出した。

親と言い争いをした後などに、家を抜け出し、ぶらぶらする。といっても盛り場などをうろつくというものではなく、近所の少年たちを誘い出し、川辺で他愛も無い会話をし、何時間か語り合うとすっきりして、そのまま帰宅するというパターンで何事も無く収まっていたのだった。

その夜までは…


それは夏の夜だった。
夕食時に両親と言い争いをしたヴォリガはいつものように家を抜け出した。
近所の少年たちが屯している川辺に出かけ、毎度のようにお互いに家に対する不満を語り合う。
そうやって1時間位たった頃だった。さっきまで蒸し暑かったので川に足をつけたりして涼をとりながら語り合っていたのだか、俄かに寒気を感じた。

「…?」
「なんか寒くないか?」

「おかしいよな?」
「幽霊とかでるんじゃないか?」

ヴォリガたちは口々に言い合いながら、川から上がったが、気のせいではなく、異様な冷気が漂っていた。

「上流から冷たい風が来てるみたいだ…」
ヴォリガがつぶやいた。

気づくと川の水面に薄い氷が張っている。こんな真夏にありえないと皆で色めきたっていると、かすかに動物の鳴き声らしきものが聞こえてきた。

「ひょっとして魔物…!?」
「確かめに行くか?」
「危ないぞ!大人を呼びに行こう!」

数人の少年は走って去って行った。

「俺、見に行ってみる。」

「やめろよ、ヴォリガ…」
残った者の静止する声も聞かず、ヴォリガは意を決して上流へ走り出した。

しばらく行くと周りは冷たい霧のような視界に包まれ、後ろの少年たちは見えなくなってしまった。
鳴き声は次第に大きくなってきた。しかし白い霧の中、声の主は見えず、ヴォリガはなお進んだ。
だんだんと近づく声は猫の鳴き声に似ていた。

『近い…』
はっきりと聞こえる声は確かに幽霊などでなく現実の存在のようだが、声の主はなかなか見つからない。
そして明らかにおかしい周囲の気温はヴォリガを警戒させた。
慎重にヴォリガはあたりを探す。
『艀から…?』
見るからに何もいないところから声が聞こえてくるのに恐ろしくなりながらも、不思議な力に導かれるようにヴォリガは艀の上に立った。
『下…?』
こわごわ川面を見下ろしたヴォリガはとうとう声の主を発見したのであった。
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