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□旅人と子供(フェリ+ゲオ+カイ)
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旅姿の一風変わった二人連れが街を歩いていた。
一人は17,8頃の年頃の大柄な茶髪の青年。腰に太刀を帯び、いかにも豪傑といった風貌である。
もう一人は10歳ぐらいの少年で、こちらも剣を持っているが、黒髪に金目のかわいらしくも端正な顔立ちをしている。
二人とも浅黒い肌をして異国の者のようであったが、その顔立ちの雰囲気の違いから、親子や兄弟ではなさそうであった。

「じゃあ、お前はこの辺で時間潰してろ。」

「分かった。」

「変な所へは行くなよ!」

「分かっている…」

そのようなやり取りをして、青年は酒場のある裏道の盛り場へ足を向けた。
このようなことには慣れているようで、黒髪の少年も落ち着いた様子で街を歩き出した。


黒髪の少年は通りを散策していたが、そう大きな街でもないため、半刻ほどで安全かと思われる所は見終えてしまった。子供一人で店に入って冷やかすのもどうかと思い、民家多い地域へ向かい、川辺に座り込んで落ち着いた。
ちょうど自分より年下のその街の子供らが遊んでいたので、少し離れた所で眺めつつ時間を潰すことにした。

そのうちに日暮れも近くなり、多くの子供らは帰っていくようだった。親が迎えに来る子供もおり、母親に連れられて帰る子供らを何気なく目で追っていた。
ふと気がつくと自分と同じように親子連れの背中を眼で追っている小さい子供がいた。
4,5歳位の遊んでいた子供らの中では一番年少ではないかと思われる金髪の少年だった。

『親が迎えに来るのを待っているのか?』
黒髪の少年は少し気になった。


しばらくして最後の子供が母親に連れられて帰って行った。それを金髪の少年はじーっと見ていた。
日も暮れて迎えが来る気配もなく、いいかげん一人でも帰るのではないかと見ていたが、金髪の少年は帰るそぶりも見せない。
怪しまれるか?とも思ったがやはり近寄って声をかけてみることにした。

「家へ帰らないのか?」

「え……?」

知らない子供に声をかけられて金髪の少年は碧い目を丸くしてしばらく黒髪の少年を観察していたが、危なくないと判断したのか、にこっと笑った。

「いつも、まだ遊んでいる時間だよ。」

「一人でか?もう日も暮れたし、お父さんやお母さんも心配するだろう?」

「…オレお父さんもお母さんもいないよ。もらわれ子だから。」

『…親のない子。俺と同じか…』

だから先ほどから妙に気になったのだろうか?とにかくこんな小さい子供を一人にしておくのもためらわれるので、家を聞き出して送っていこうと思い、金髪の少年と話をしだした。
しかしどうやら、金髪の少年が世話になっている家は店をやっているらしく、いつも店が終わるまでは一人で遊んでいるらしい。
金髪の少年はおそらく純粋に養子として引き取られたのではなく、将来働き手にするためにでも引き取られたのであろう。情に餓えているのか、話をしているうちに初対面の黒髪の少年に妙に懐いてきた。
黒髪の少年は旅をしているのだと金髪の少年に話すと、金髪の少年は目を輝かせ、旅の話をせがんだ。黒髪の少年はこんな小さな子供を長時間相手をするのは初めてだったが、意外と楽しく感じられ様々な異国の話を語った。

「いいなー、オレも行ってみたい。」
金髪の少年は黒髪の少年の話に目を輝かせた。


『俺もフェリドに出会うまではこんなふうだったな。』
ゲオルグは思った。


ふと大きな人影が現れた。
「こんなところにいたのか、探したぞ。遅くなって悪かったな。なかなか目当ての情報屋が見つからんくてな。」
そして黒髪の少年の隣にいる金髪の少年に目をやって青年は言った。

「…なんだ珍しいな。この街の子供と仲良くなったのか?これはまた随分と小さいお友達だな…」
まくしたてるフェリドに金髪の子供はゲオルグの影に隠れた。

「さっき話した俺の旅の連れだ。怖がらなくていい。」ゲオルグは金髪の少年に言った。
どうやら大柄なフェリドに少し怯えているようだ。

「そろそろ宿を探そうかと思うんだが、その小さなお友達はおうちへ帰らんのか?もう遅いぞ。」

「それが…」

「カイルくん?」
ゲオルグが事情を説明しようとしたところへ、通りかかった商人風の男がやってきた。

「この方たちは?」
男が訝しげにフェリドとゲオルグを見る。

「旅の人たちだよー。ワシールさん。」
カイルと呼ばれた金髪の少年は無邪気に答える。

「俺たちは旅の途中の通りがかりだが、小さな子供が夜遅くに一人でいるので、どうしたもんかと思って一緒にいたところだ。」
フェリドが手短に説明した。

「それは街の子供が大変お世話になりました。ご心配をかけて申し訳ありません。
カイルくん、お店が終わるまでおじさんの家にいたらいい。さっ、一緒においで。」
そしてワシールと呼ばれた男は一礼してカイルの手を取り歩き出した。

「じゃあ、お兄さん、またねー。」
カイルは少し名残惜しそうに振り返り、ゲオルグに手を振った。

「ああ。」
ゲオルグも片手をあげて答えた。



その夜、宿でゲオルグはカイルのことをフェリドに話した。
カイルに親のないこと、養われている家では寂しい思いをしていると思われること、異国に行ってみたいと目を輝かせていたこと…
無口なゲオルグがここまで饒舌に喋るのは珍しく、フェリドも茶化さず真剣に聞いた。

「なあ、あいつも一緒に連れて行ってやれないか?」
ゲオルグは聞いた。

しかしフェリドは言った。
「駄目だ。」

「なんで?俺の話聞いてただろ?」
ゲオルグは食い下がる。

「まず、あんな小さな子供は旅には耐えられん。危険なこともたくさんあるのはお前も分かっているだろう?魔物に襲われたら命を落とすこともある。俺は二人は守れん。
それに養い親に恵まれてないとはいえ、さっきあったワシールとかいう男の様にこういう街には人情に厚い奴がいる。今はここで育つほうがあの子供にとっては良いだろう。」

正論だ。だがカイルにとってあの寂しそうな毎日がまだ続くのか、と思うと黙っていられない。

「でも…!」
さらに続けようとしたゲオルグの頭に手をおいてフェリドは制した。

「”今は”と言ったろう。お前が自分で自分の身を守れるようになって、その頃カイルがまだ旅に出たいと言うなら一緒に連れて行ってやってもいい。」

「…………分かった。」
長い間をおいてゲオルグは答えた。悔しいがフェリドの言うとおりだ。
自分の感傷で徒に一人の子供の命を危険にさらすことはできない。
悔しいが、それが現実だ。それから一言も発せず、ゲオルグはベッドにもぐり込んだ。

翌日、二人はレルカーを発った。その夜は野宿だった。
焚き火を眺めながらゲオルグは1日ぶりにフェリドへ口を開いた。

「フェリド…!頼む!!もっと剣の稽古の時間を増やしてれ!!」

「分かった。ここんとこ移動ばかりだったからな。なんなら、今からやるか?」

「ああ!」

剣を携えて二人は立ち上がる。


『強くなってやる。一日でも早く!!』
ゲオルグは強く思ったのであった。


end
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