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□獅子の猫(フェリカイ)
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アーメスとの戦は多大な犠牲を払いながらもファレナの勝利に終わった。
撤収作業の合間、この戦の指揮をとった獅子はしばしの休息の時間を天蓋でとっていた。

この戦で拾ってきた野良猫を傍らにおいて柔らかな毛並みを梳きながら獅子は横になっている。
猫は獅子にされるがままに身を任せ、優雅に喉を鳴らしている。

初めてその猫と出会った時、猫は獅子を警戒して逃げようとした。しかし同じ野生の臭いを嗅ぎ取ったのか、獅子への興味を捨てられないようだった。
何度か出くわすうちに、うまく獅子は野良猫の気を引き、捕まえることに成功した。
もう猫は野良ではない、獅子のものだ。

しなやかな体躯と身のこなし、強い眼差しが気に入り連れ帰った猫は、洗ってみるとことのほか美しい毛並みをしており獅子を驚かせた。ソルファレナの貴族たちが獅子に宛がおうとする血統書付の猫どもなど足元にも及ばぬ見事なものだった。
日が経つにつれ猫が獅子に慣れてくると時たま擦り寄って甘えて来るようになった。逃げよう逃げようともがいて暴れていた出会いの頃から考えるとたいした進歩である。
獅子の猫に対する愛着も募り、今では片時も離さず傍に置いている。


「お前の髪は気持ちいいな…」
カイルの髪をもてあそびながらフェリドは言う。

フェリドに後ろ髪を触らせたまま背を向けた格好でカイルは答えた。
「そうですかー?もう何年も切ってないから結構痛んでるはずなんですけどねー。戦も終わって余裕できたら久々に切りたいな。」
2、3年手を入れていないであろうその髪は肩についており、前髪も顔にかかって邪魔そうにしている時もあった。しかし手入れなどしていなくともその髪はフェリドをいつも楽しませてくれる。


「ならんぞ。」

「え?」

「切ってはならん。お前を女王騎士にすると言っただろう?」

「えー、前も言いましたけどやっぱりめんどくさそう…」

「お前な…天下の女王騎士だぞ…。それにお前俺と一緒にいたくないのか?」

「…それは…一緒にいたいです…。」
小さな声でカイルは答えた。

フェリドは例えカイルが女王騎士などにならなくとも連れて行くつもりではいたが、この孤児育ちの少年はあまりにも欲がない。女王騎士にも成りえる非凡な才能を持っている少年にもっと多くを望んで欲しかった。

「後ろは整えるだけでいい。…前髪は切るか。お前のその目が俺によく見えるようにな!」

「…。」

答えがないので身を起こして覗き込むと、カイルは恥ずかしそうに顔をを赤くしていた。

「ほんとにかわいい奴だな。」
フェリドは身をかがめカイルのこめかみに口付けを落とした。

明朝はここを引き払い、ソルファレナへの出立である。

end
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