カプ向けな20のお題
□03:たまには喧嘩も(フェリカイ)
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ゲオルグがファレナに来て、1週間、そろそろ同僚とも打ち解けて来た。
今日はゲオルグと同じく非番のカイルがソルファレナのチーズケーキのおいしい穴場の店へ案内してくれる約束であった。
前日、ミアキスと甘味の話で盛り上げっているところに通りかかったカイルが、ゲオルグのチーズケーキが大好きだという話題を聞きつけて申し出てくれたのである。
ゲオルグは約束の時間よりかなり前に身支度を整え、カイルが迎えにくるのを今か今かと待っていた。
しかし約束の3時になり、さらに5分が過ぎてもカイルは来ない。
貧乏揺すりするほどまで煮詰まったゲオルグはカイルの部屋へ出向くことにした。
『もう真昼だ、寝坊ということでも無いだろうに…店の場所が難しいとはいえ、地図でももらうだけでもしておけば良かった…。」
ガオルグは案内してくれるというカイルの言葉を鵜呑みにした自分を後悔していた。
絶品チーズケーキにありつけることを前夜から楽しみにしていたため、焦りは最高潮だ。
『この辺りだったか?…しかし女王騎士の部屋の中でアイツのだけえらく離れた分かりにくい場所にあるな。』
そして、目当ての部屋を見つけて足早に近寄ろうとしたゲオルグは、ふと部屋にカイル以外の別の人物の気配を感じ、足を止めた。
好奇心で自分の気配を消してドアに近寄り、中の気配を窺うと、どうやらもう一人の人物はよく自分のよく知っている男、フェリドのようだった。
『フェリドなら構わんか…』
騎士長様が何で一介の騎士の個室に?という疑問はチーズケーキの前にはたいしたことではなく、ゲオルグはノブに手をかけようとしたが、ふと中の言い争う声に気づき、そのまま留まった。
「いかんっ!いかんぞっ!!」
「もー、約束してるんだから、いい加減そこどいて下さいっっ!!」
ゲオルグにドアのすぐ向こう側で言い争っている二人の声が聞こえてきた。
『フェリド!!カイルが来ない原因はお前か!!何で邪魔する!?』
ゲオルグは心の中で叫んだ。
「絶対、行ってはいかん!!」
きつい口調のフェリド。
「何で貴方はそんなに分からず屋なんですかっ!?」
カイルも負けてはいない。
どうやら言い争いは大分前から続いているようだ。
『カイル、そんな奴早く振り切って出て来い!!
…しかし如何に相手はフェリドとはいえ仮にも騎士長…長い付き合いとはいえ随分酷い言い様だな…』
不良騎士とは言え、騎士長相手にそんな言葉遣い許されるのか…?と公務のときよりもさらに酷いカイルの口調にゲオルグは少しあきれもした。
「そんなことにまで、いちいち五月蝿いんです!!貴方オレのお父さんですか!!」
24の男とは思えない言動が聞こえてきた。
『こりゃまた…まるで思春期の子供の反抗期だな…』
ゲオルグはさらにあきれる。
『だが…何でもいい!!早くフェリドを振り切って来い、カイル!!』
扉を開けてフェリドを押しのけてカイルを連れ出そうか、とも思った時、とんでもない発言が聞こえてきた。
「そんな危ない格好で出かけさせられるか!!おまけに相手はゲオルグだと?!絶対にいかん!!」
「何で…?フェリド様がゲオルグ殿と“仲良くしてやれ”って言ってたくせに!」
「何もゲオルグと出かけるのが駄目だといってるのではない、“その格好”で一緒に出かけるのはいかんと言っているんだ!!そんな露出度の高い服、ゲオルグをを誘惑するつもりか!?」
「あー、もう、そういうところがうっとうしいんですっ!!だいたいアーメス戦の時はいつもこんな服着てたじゃないですか?何を今更ー!」
「あの時はお前はまだ色気も無い子供だったろう?もう大人なんだからそんな男を挑発するような服装はいかん!!」
「ふーん、その子供を手篭めにしたのは一体何処の何方でしたかねー?」
『…痴話喧嘩…なのか…?』
聞こえてきた会話に脳内が一瞬真っ白にったゲオルグだった
が、確かに二人ができているとなると、今まで疑問に思ってきたことに納得いく部分が出てくるのだった。
勤務中の二人の目で語るやり取り、カイルと自分が話しているときのフェリドの不機嫌な表情、そして今日気づいた人目を憚るように目立たぬ所に位置するカイルの部屋…などだ。
『これは仲裁には入りにくいな…。むー、カイル、自力でここまで来い!!俺が何とかする!!』
ゲオルグは祈りを込めてカイルを応援したが…
ガタンッという物音が聞こえ、
「離して下さいッ!!」
というカイルの声がする
さらにバタンガタンと物が倒れるような音が続いた。
『女王騎士同士、刃傷沙汰までもいかぬとも、痴話喧嘩がエスカレートしてケガでもしようものなら、聞こえも悪かろう。これは止めた方が良いのか…?』
と痴話喧嘩が暴力沙汰になるぬうちに仲裁に入るべきか悩むゲオルグだったが…
「や…だっ…離して……あ…」
先ほどまで威勢のいい啖呵を切っていた人物と同じとは思えない声が聞こえてきた。
『フェリド…そっちの手で言うことを聞かす気か…』
悩ましげなカイルの声をなるべく聞かぬように少しずつゲオルグはドアから遠ざかった。
「ホラ、いい加減言うことを聞け…」
「おう…ぼうっ…」
「まだ反抗するか…ならおしおきだな…」
「うあっ!?ちょっと、下ろして下さいっ!フェリド様ー!!」
そんなカイルの悲鳴にも似た声はだんだんとドアから遠ざかっていった。恐らくフェリドに強引に引き戻されたのであろう。…ゲオルグは意気消沈していた。
『フェリドのことだ、2,3時間はおしおきが続くだろうな…』
すでにゲオルグは自室へ引き返し始めていた。
『…しかし奴らたまに喧嘩するにもよりによって今日という日にせずとも…』
遠い目をしていたゲオルグだったが、一瞬後、はっとした表情を浮かべた。そして先日お取り寄せしたチーズケーキを解凍するべく部屋へと急ぐのであった。
end