カプ向けな20のお題

□17:初恋の人(王子+カイル)
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戦が終わり、やっと父上が戻ってきた。昨晩久々に会った父上はいつにも増して嬉しそうに僕を抱き上げて夜遅くまで一緒に過ごした。

翌日からずっと、城内は戦時中とはまた違う忙しさでバタバタしていた。女官たちも忙しいらしい。子供でしかも男の僕には特に手伝えることもない。忙しそうな城内で一人暇な僕はなんとなくいたたまれない。そんな日が何日か続いたある日の午後、僕は城内の騒がしさから逃れて庭へ抜け出した。


庭には誰もおらず、とても静かだ。
少しの息抜きの一時にと人目につかない木陰に座って、持ってきた本を開き、読み出した。


日が少し傾いた頃、僕は読書にも飽き、ふと視線を上げた。
すると対面の建物の窓がきら、と光るのを見た。『なに?』とよく目をこらすと、それは人だった。
金の髪の人が窓辺にいる。金髪に目は蒼色…外国人?
男か女か…遠いからかどちらにも見えた。年は僕よりは大分上のようだが、大人という程でもなさそうで、サイアリーズ叔母さん位かなと思った。
金髪だし、あの部屋の位置は客間だから…やっぱり異国のお客かな?そんなことを考えつつ、なんだか気になって僕はずっと見ていた。

その人は空を飛ぶ鳥をずっと羨ましそうに眺めていた。その姿はちょっと寂しそうにも見えた。
『あの部屋から出たいのかな…?』
僕にはそんな風に思えた。


部屋に帰ってからもその光景が心に焼きついて離れなかった。だからだろうか…


その晩、僕は夢を見た。
僕は閉じ込められているあの人を助け出しに向かっていた。あの人はやはり窓辺にいた。じっと僕を見ている。
部屋の窓の下まで来たけど、窓ははるか高いところにあり、とても上れそうにない。どこか別の入り口はないかと探してみたが、いつの間にかその建物は塔に変わっていて、しかも扉も何もない。
あの人のいる部屋の窓一つ。ただそこからしか出入りすることはできないんだ…。
何十メートルも上にある窓を見上げて僕が思案に暮れていると、あの人は僕に優しく笑いかけると、長い金髪の三つ編みの髪を窓の下へおろしていった。僕は地面に降りてきたその髪ををロープのようにして上がっていった。途中でふと下を見ると僕のいた地面はいつの間にか泥沼になっていて、もう少しあそこにいたら僕は飲まれていたんだろう、と恐ろしくなった。
いつの間にか僕のほうがあの人に助けられていたのだった。

もう少しで窓、というところで目の前に一面の光が広がった。


「…ゆ…め…?」
どうやら目が覚めてしまった。あと少しで窓に手が届くところだったのに、と残念になった。窓からは朝日が差し込んでおり、僕はあの人との対面を邪魔した太陽を少し恨めしく思った。

「王子殿下?お目覚めですか?」トントンというノックの音とともに部屋の外から女官の声がかかる。どうやらさっきからノックをしていて僕はそれで現実世界に戻されたようだった。

「起きたよ。」部屋の外へ声をかけると、女官が入ってきた。

「騎士長閣下がお呼びでございますよ。ささ、早くお召し変えをいたしましょうね。」
とあせり気味の女官は僕をせかした。

『父上に会えるのはいつもは嬉しいけど、今日はもうちょっと後にして欲しかったな…』
もちろん口には出さなかったけど、なんて今日はタイミングが悪いんだろう。


着替えさせられた僕は父上の待つ部屋へ連れて行かれた。
今日は寝坊したのでまだ少し頭がぼーっとしている。

『もう少し寝てられたら夢の続きが見られたのにな。』
なんて上の空で部屋に入った僕は、目の前の光景にものすごくびっくりした。

父上の傍に、女王騎士のような黒い服を着た、人が控えていて、その人は…金の髪に碧い瞳…髪の長さは夢と違って肩くらいまでで結ってもいないけど、…あの人…?

『まだ…ぼくゆめ見てるの…?』

父上が何か言っていたようだったけど、何にも聞こえてなかった。それくらい僕は驚いていた。
気づいたときには、あの人は少し心配そうな顔をして僕の前にゆっくりと進んできていた。
すごくドキドキして恥ずかしくなって俯くと、腰をかがめて僕の視顔の高さに合わせ、そしてにっこりと笑いかけて、こういった。

「カイルです。仲良くしましょうねー。」

『もしこれが夢だったらずっとさめませんように…』
そう願いながら、僕は顔を上げ、青い瞳を見つめたのだった。

end
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