キリリク部屋

□傷(フェリカイ)
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蹲る足元には一面の血の海。
敵味方を問わず無数の死体。
死はファレナ・アーメス両軍に平等に訪れる。

数時間前までは皆無我夢中で戦っていた。剣を振い、紋章を発動させ、皆死にもの狂いであった。
オレも同様だった。
そしてとうとう紋章も使い切り、体力も限界でもう立ってもいられなくなって、膝を折って地面に倒れこんだ。
『もうダメだ…』と思ったが、いつまでたっても攻撃が来ない。
やっと少し顔をあげるとすでに周りにはまともに動けるものはいなかった。まさに地獄絵…。幼い頃何度も夢に見てうなされたような光景が現実の目の前に広がっている。一面の血に塗れた人間の体が横たわっていた。

しばらくして呼吸ができるようになって、少し離れた所に顔見知りの兵士が瀕死の状態で呻いているのに気づいた。
しかし、紋章も使いきった状態で指一本たりとも動かせず、オレは彼に何もしてやることができなかった。
救護部隊が来る前に彼は息を引き取った。

オレは無力だった。


救護兵に運ばれたオレは外傷はたいしたことが無く駐屯地で紋章官に癒されて回復した。

救護用のテントを出て、頃合いの大木を見つけて腰を下ろす。
『あの人は大丈夫かな…?』
オレは大好きなあの人が心配だった。
武芸に秀でた彼のことだから、怪我や命の心配は無いだろうが、多くの死傷者が出たことにただ心を痛めているのではないか…と。

だが一介の義勇兵が自軍の大将に会いに行くなんてできるはずもない。オレは彼のことを考えながら木陰でしばし、ぼーっとしていた。


しばらくして足元に寄ってくる小さな物体を目にとめた。よく見るとそれはネズミ。

『あ…れ…?』

手を伸ばすとすり抜けて、まるで人間のように振り返ってオレを見てきた。
オレが立ちあがると、少し走って後足で立ち上がって手招きするような仕草をする。たまらなく可愛い。つられてオレはネズミに寄って行った。

ネズミはちょろちょろとすぐ先の森の木立まで入って行った。数メートル先からじっとつぶらな瞳でこちらを見ている。
オレはここまで付いて来たものの、さすがにおかしいなと思い、歩みを止めた。

戻ろうか…と思った刹那、木立から現れた腕に体を引き込まれた。

「ぐっ!?」

口を塞がれ、声も上げられない。
オレは必死に手を振りほどこうと抵抗した。
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