ただ君を想う
□第2話
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「次はエスプレッソの淹れ方でも教えようかね。」
そう俺に話しかけてくるのは、60代にさしかかっているかなり高齢のじいさん。
白髪交じりの短髪に垂れ目。穏和な雰囲気を醸し出している。
この人は俺が居候しているアルバイト先のマスター、土浦 衛(ツチウラ マモル)さん。
俺は、衛さんって呼んでいる。
小さいが趣のある珈琲店を営んでいて、中にはこのマスターを狙ってくる人も少なくない。
衛さんは人のことは根掘り葉掘り聞くくせに、自分の事はなかなか教えてくれない。
そんな訳で俺は家のことやら、その他洗いざらい衛さんに知られている。
「お!よう!なー君☆」
「“なー君”はやめろ。」
今、声をかけてきた顔は良いけど軽そうな男が土浦 恭兵(ツチウラ キョウヘイ)。年は25歳。
衛さんの息子で、遺伝なのか垂れ目。
こんなんでも大学教授の助手なんてしてる。
人は見かけによらないなんてよく言ったもんだ。
え?なんで“なー君”って呼ばれてんのかって?
名前で呼ぶなって言ったら、次の日からこうなった。
言われる度にこうして抵抗しているんだけど、やめる気配は見えない。
ついでに言うと、恭兵には1つ年上の既婚の姉がいる。
名前は、綺紗(キサ)。名前の通りとても綺麗な人なんだけど、すごい人なんだよなぁ。
とまぁ、いつもは衛さんと俺がこの珈琲店で働いている。恭兵はときどき手伝う程度。
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