+ 話 +
□それでも尚、遠く。
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つい先刻まで熱気と喚声と金属音に包まれていたこの場所も、今では遠くで風にさわさわと揺れる木葉の音が聞こえるほどに静かになった。
このだだっ広い草原でその音を拾えるのは、忍である己だけかもしれないが。
この場所に戻ってきたのは、主を迎えに来たからだった。
でなければこんな場所、用もないのに足を運ぶわけがない。
見渡す限りの赤。
今日の戦の相手が赤い甲冑なのもあるが、理由はそれだけではない。
この場所だけでなく、生き残り還ってきた兵士たちも。
きっと、赤いのだろう。
先程報告してきた本陣を思い出し、小さく溜め息をつく。
戦にでているくせに、一番安全な場所で得意気な顔して、さも自分達の手柄だとふんぞり返っていた上役に虫酸が走る。
(主がいたからこその安全なのに)
当たり前な顔をする上役が憎い。
―――……。
ゆるく流れた風にのって、主の声が耳に届く。
蒼天を仰ぐと一羽の鷹がゆっくりと旋回していた。
それを確認したその一瞬後には、忍の姿はそこになかった。
草原の真ん中に佇む人を見つけて、ひとまず安堵した。
長く艶やかな髪が、主のために仕立てられた衣の裾が、風に揺らめいている。
この瞬間がとても好きだ。
赤い戦場跡では、真っ青な戦装束がよく映える。
悪目立ちをするから止めてくれ、といつも言っているが、この時だけはいいかもしれないと思ってしまう。
それ程に、
(綺麗だ……)
ふと、主の視線がこちらを向いた。
まだそれなりに距離はあるにもかかわらず、確かに己を見ている。
その勘の良さには毎度毎度、舌を巻く。
(これでも気配は絶っているのに……)
見つかっては、忍失格なのではないだろうか。と、たまに思う。
だが、そこは主が忍以上なのだと言いたい。
でないと、ほんのささやかな自尊心に傷がつく。
もう少し主の姿を眺めていたかったが、見つかったのでは仕方がない。
足に力を込め、目で捉えられないほどの速さで主のもとに向かった。
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