+ 話 +

□この刃を向ける先。
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バシバシと木刀がぶつかる鈍い音がする。
それから気合いをいれる声。


「主、どうやら今は剣術の鍛錬中です」

「ん? ……お前は相変わらず耳が良いな。私にはまだ聞こえない」

「道場は遠い。聞こえなくても仕方がないですよ。……手綱を。厩に連れていきますのでその間に着替えて下さい」

「済まんな、頼む」


道場の敷地の門をくぐれば、目の前は兵舎の入り口になっている。
千歳は時実が中に入るのを見届けてから、二頭の馬を連れて厩へ向かった。

















兵舎の中は閑散としていて、誰もいなかった。
しかし、その分先にある道場からは沢山の人の気配と気迫を感じる。

それから、道場の手前にもう一つ気配。

忍術で瞬間的に移動する。
案の定、正装から蒼の動きやすい胴着に着替えた主がいた。


「おぉ、早かったな千歳!」

「主は遅いですね」

「……お前と比べたらな」


拗ねたような顔をするも、直ぐに道場へ向き直った。
心なしか楽しそうなのは、軍議での鬱憤を晴らせると思っているからだろうか。

そして、いざ主が中に入ろうと戸に手をかけたとき。
ふと、副隊長と数人の声が聞こえてきた。


『オイ、そこの二人! 手ェ抜いてんじゃねえ!』

『痛っ、手なんか抜いてねェよ冬十郎さん!』

『あ"ぁン? 俺が間違ってるとでも言うのか?』

『そんなことは……ってか、冬十郎さんこそさっきから見て回るだけで、やってないじゃないッスか!』

『俺ァいいんだよ、強いから』

『ッ……そんなこと言ってっから時実隊長に負けるんだ!』

『ァんだと? 今やりゃあ時実なんざ楽勝だっての!』


ズダァァンッ!

と小気味良いを通り越してどっか壊したんじゃないか、っていう音を立てたのは勿論主だ。

戸がミシッていったミシッて。

中で鍛錬をしていた兵は勿論、戸の近くに立っていた副隊長、永井 冬十郎<ナガイ トウジュウロウ>も、主を肩越しに振り返ったまま微動だにしない。

そんな冬十郎に主はにっこり笑みを浮かべて近づいた。


「た、たいちょー……き今日は早いんですね?」

「あぁ、いろいろあって殿が終わらせてくださったのだ」

「へぇー、お疲れ様ッス! なら茶でも淹れましょうか?」

「いや、それよりも、」


ニヤニヤとからかうように小首を傾げて冬十郎を窺う主に、ため息を吐きたくなった。


「強くなったのか? 冬十郎。ならば、私と一つ勝負と行こうじゃないか!」

「うえぇぇ!? いや、その……これは、なんというか」

「問答無用!!」

「ちょ、待って、……ギャアアアアアアア!!」










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