+ 話 +

□抗う程に、それは。
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千歳は主の前、下座に片膝を付く。


「申し訳ありません。逃しました」

「よい。それよりも何か分かったか?」

「それが……」





ココを逃した後、千歳は寄り道をして帰ってきた。
先に逃げた忍が向かった、几楊の国だ。

下準備も無く下手に国境を越えると気付かれる恐れがあるので、境ギリギリの所で部下と落ち合った。
伝令に鷹丸を使えば、そう時をかけずに集る。


部下に話を聞けば、几楊のとある武家の家に入っていったらしい。


「気付かれた様子もなかったので確かです」

「どこの武家で、何故時実様を狙ったか分かったか?」

「几楊が要、騎馬隊大将 長谷川 吉影。同じ騎馬隊隊長として主が邪魔になり狙ったと思ったのですが……おかしなことに、追った忍が屋敷についた途端屋敷の中が騒がしくなったのです。まるで、忍が帰ってきたこと自体がおかしなことであるかのように」

「……どういうことだ?」

「それは分かりませんでした。しかし、兵の話では長谷川は暗殺命令を出していないようです。下っ端なので怪しいですが……」

「なる程な。じゃあコレ……この紋は長谷川のものか?」

「……似ていますが、恐らく違います」

「……そうか。他に分かったことは?」

「ありません」

「よし、急ぎ屋敷へ帰る。……行くぞ」









「……ほぅ、長谷川 吉影か。名だけなら聞いたことがある」


黙って報告を聞いていた主が感嘆の声をあげる。


「騎馬隊に力を入れる几楊の国での上級の武将だ。同数でぶつかったら負けるのは必至だと言われている程だ」

「それほどに……」


驚いた。
あからさまな暗殺だったから、上役の人間ではないと踏んでいた。
ならば、そこまでの人物が何故?


「あぁ。だが、だからこそ私を狙った理由が分からない」


主にも見当が付かないらしい。

これ以上考えても、逃げた忍からは何も分からないだろう。
そう思い、千歳は懐からひん曲がったクナイを取り出した。


「……ならば、この紋に見覚えはありませんか?」

「それは?」

「ココが唯一残していったものです。歪んでいますが紋があるのがわかりますか?」

「これか……うーむ、わからんな」


しばらく眉根を顰めていた主だが、知らないと言った。
ならば、捜索隊を編成して地道に探し出すしかないか……。





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