+ 話 +
□きっと、その時は。
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「……さて、千歳」
「はい」
真剣さを帯びた声音に、居住まいを正す。
「明日、朝から軍議になった」
「……もう、戦が?」
「いや、どちらかと言えば昨日の戦の自慢話だろうな」
「自慢話……」
「狸どもの愚痴に付き合っている暇はないのだがな」
忌々しそうに呟き、頭を掻く。
「本当は皆の調子と犠牲の数を確かめて、必要あれば再編成しなければならないと思っていたのだが……」
「後回しにしなければなりませんね」
「あぁ」
皆というのは騎馬隊の兵たちのことで、本来なら怪我や武具の確認をする予定だったのだ。
それは毎回決まって行っているものなので、おそらく主が居なくても副隊長がやってくれるだろう。
だが、主にとって騎馬隊は本当に大切なものだから、自分の目で確かめて皆と共にいたいと思うのが本音だろう。
「もしかしたら早く終わるかもしれない。そうしたら隊の方にも顔を出す」
「わかりました。副隊長には連絡を出します」
「頼む。……そういうわけだから、明日は一日小姓姿でいてくれ」
「御意」
本当は、小姓姿になるのは嫌だった。
袴は慣れないし、暗器を仕込む数も普段に比べると格段に減る。
顔付きも変装のために少し弄るので、顔が引きつって仕方がない。
現に今も、頬に付けた偽物の皮膚が痒い。
「……皆揃ったな」
上座に居るのが、この佐伊<サイ>の国の殿様、坂田 忠秀<サカタ タダヒデ>様。
主の敬愛してやまないお方で、若いながらも富んだこの地を治める良き殿だ。
そのすぐ側に控えているのが、片岡 靖晴<カタオカ ヤスハル>様。
生真面目な方で、殿の右腕とも称される。
こちらもまだお若いが、血気盛んな殿に比べ、客観的な見方から助言を与える、冷静沈着な軍師だ。
この二人が、主にとって尊敬する人物で、後は良い人や苦手な人、最悪は狸と呼ぶような人物ばかりだった。
この軍議に使っている広間に一番上の殿をはじめ、肩書き順に並んでいた。
主はちょうど中間あたりだ。
自分は小姓としてついてきているので、主の後ろに目立たないよう縮こまっている。
いかにも、萎縮しているように見せかけて。
「……それでは、一昨日の戦の報告をしてもらおうか」
よく通る声で、片岡様が長くなるであろう軍議を開始させた。
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