+ 話 +

□この刃を向ける先。
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結局。

主に捕まった冬十郎は抵抗虚しく、ボッコボコにされた。
吹っ飛ばされ、壁に激突してできた大きなたんこぶが痛々しい。


「ってぇぇ―……」

「……冬十郎、確かに強くなったが腕力だけでは勝てないぞ」

「ちぇっ、つーか時実のその細っこい腕のどこにそんな力があんだよ」

「あるものはあるのさ」

「答えになってねー」


主はコツがあるんだ、と笑いながら座り込む冬十郎に手を貸した。

それから主はくるりとこちらを向いた。


「ぁー……藤丸」


……誰のことだ、誰の。
明らかに今考えたような名前だが、確実に己を見ていた。
真っ直ぐな瞳が察しろ、合わせろと訴えている。

「……はい」

「今日の軍議を皆に話す。広間の準備をしておけ」

「はっ、」


主と冬十郎の会話を聞きつつ、千歳は準備のために道場を出た。










「じゃあ、騎馬隊の変更は無しか」

「あぁ。羽山軍に勝ち佐伊の領土が広くなった今、暫くは戦は無いだろう」

「だろうな。お隣さんは最近静かだし、近隣の小国は中立を決め込んでやがるし」


広間に集まっているのは、騎馬隊の重臣達で上座に主が座り、副隊長である冬十郎を右手に円形に座っていた。
自分は小姓として、主の右斜め後ろに控えている。


「だが、それで安心はするなよ。いつでも出れるようにしておけ」


油断するな、と言う主に冬十郎は力強く頷いてみせた。

「わかった。……他にはあんのか?」

「……もう一つある」

「なんだ?」

「……さっき、騎馬の編成は変わらないと言ったが……もしかしたら変わるもしれん」


どういうことです? と左隣の男が首を傾げた。

名を松山 兼直<マツヤマ カネナオ>といい、冬十郎に続く騎馬隊の古株だ。

ガラの悪いのが集まる中、兼直は生真面目で実直な人物である。
それ故に、時実の隊長就任の時に物凄い勢いで反対されたのは記憶に新しい。
少々どころでなく厳つい顔を怒りに歪めた姿は、そりゃあもう仁王のように恐ろしかった。


「あくまでも私の考えだが……戦がない間、殿は兵の強化をすると思うんだ」

「それはそうでしょう。」

「いや、私が言っているのは兵ではなく指揮官のことだ」

「指揮官……?」







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