+ 話 +

□逢い見えるために。
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楊愁が政務をこなしている時、隠密から受けた報告の一つで、隣の大国、佐伊の国の噂。
その情報は、なんともわざとらしいものだった。


「“蒼き風”だぁ?」

「はい。なんでも戦場で真っ青な陣羽織を身に纏い、その姿たるや神の如し、と。下々の者にまで広まっており、民からの信頼も厚いと」

「戦場で、真っ青な陣羽織だと……?」


愚かな。
狙ってくれ、と言っているようなモンだ。

しかも、騎馬隊の隊長を任されてるなど……愚かにも程がある。

仮にも佐伊の国は大国なのだ。
殿様は賢い人物だと聞く。

ならば青の陣羽織にも意味はあるだろうが、大方、敵の気を引き付けておいた所に奇襲をかけるためだろう。

ならばソイツは人形か罪人か。
良くて鎧を着込んだ兵士が後ろにいるだけだろう。

佐伊の国もなかなか可笑しな戦法をするものだ。


「そんな馬鹿げた噂など信じるな。大方、作戦の一つなのだろうからな」

「わかりました。引き続き、佐伊の偵察をします」

「ああ」


消えた隠密が部屋を離れるのを待って、楊愁は政務を再開した。
その時にはもう、“蒼き風”のことは頭にはなかった。







国境の小競り合い。

国境と言っても、きっちりとした線引きがされているわけではないのだ。
曖昧な境界線を巡って絶えず争いは絶えない。

今回は、少々大きな争いになったということで、王の勅命により俺が出向くことになった。


勝てる、戦のはずだった。


「どういうことだ!」

「む、向かった中隊が、潰走させられました! 被害は甚大で、指揮系統が崩れたため、混乱に陥っているそうです!」


ダンッと拳を机に叩きつける。

報告した兵士が怯えているが、構っていられなかった。


国境に向けた部隊は、六州最大の武力を誇る関州<セキシュウ>の部隊だ。
己が率いる禁軍ほど精強でないにしても、潰走させ、さらには混乱を招くほどの部隊が佐伊の国にはあるのか。

そんな話は、聞いていない。


「ほ、報告します! 敵部隊の正体がわかりました! “蒼き風”東條時実率いる騎馬隊です!」


騎馬隊……?
あそこは、岩や木々が邪魔をするため騎馬戦には向いていないはずだ。
馬が縦横無尽に走れる広さはない。


「ッ、撤退命令を出せ! 一旦体制を整える!」

「はっ!」

「俺も出る。だれか馬を連れて来い」


“蒼き風”東條時実。

なぜ、その名前が出てくるのだ。
騎馬隊ならば平原の戦に出るのが定石。
いくら奇襲を狙っていたとしても、足場の悪い場所では逆に不利だ。


何故。


出ない答えに苛立ちながらも、馬を駆けさせる速さは変わらなかった。








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