星の行く末、深淵の原
□召し抱えたのは支配力
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「あの部屋は何だ?」
「縫いぐるみ部屋だよ」
一階の応接間でゆっくり話そうと移動した二人。百年近く会っていなかったせいか、記憶と現実にズレが生じている。
「……ぬいぐるみ、好きだったか…?」
「いや、暇つぶしで始めたんだ」
「不器用なのに」
「不器用だからこそだよ。
クロも以前より雰囲気が柔らかくなったみたいだ。けど、ぴりぴりしてる部分もあるね。何があったの?」
「……いろいろと」
嘘をつくのが下手なのも変わっていない。
あえて深くは探らず、ナハトはキャンディを口に入れた。
「――あれから、ランクは上がった?」
クロは首を横に振り、否定を示した。
「一人前になるのを、諦めた…?」
「他人の言う《一人前》になんてならなくても良いと言える奴に出会った」
「それ、人間?」
今度は頷いて肯定。
魔界で手に入れた菓子はナハトに渡した分だけだったのか、クロは人間界のお菓子を頬張っている。
「……すっかり人間に馴染んじゃったんだね」
「そうかもな」
心なしか、嬉しそうに答えたように見えた。悪魔が人間に馴染んで喜ぶなんておかしな話だ。
クロは側を飛んでいたカルルにポケットの中で休んでいるように言った。代わりに呼び出したのは、羽の生えたランプ。
思わずテーブルに手をついて見入ってしまう。
「……それ、もしかして」
「ランプランタ。かわいいだろ」
興味津々な目でナハトは薄暗い部屋に灯るランプを見ていた。
ぱたぱたと羽ばたく白い羽、黄色く爆ぜる炎。尻尾はご機嫌に揺れている。
「白い羽か。確かコウモリ羽のもいたと思うんだけど」
「ルビは白羽だ。な」
クロが右斜め前に浮いているランプに笑いかけると、ルビと呼ばれたランプは同意の意味なのか体を揺らした。まるで頷いているようだ。
「いいなー……使い魔とランプー」
ルビを見つめていたナハトがぽつりと呟いた。
「おれが言うのも何だけどさ、ナハトってたまに子供っぽいよな」
「そう?」
本人は無自覚のようだが。
「それに、お前にはコウモリ達がいるだろ」
言われてナハトは天井を見上げた。無数のコウモリがこちらを見下ろしている。確かに色んな場面で助けられてはいる。使い魔とは多少違うが。
「あいつらの今の主はナハト、お前だろ?」
「……うん」