星の行く末、深淵の原

□召し抱えたのは支配力
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 ナハトは祭の夜に出会った少女の事をクロに話した。
 友人の為ならと前傾姿勢で聞いていたクロは、話が進むにつれて難色を示した。

「ダメだ」
「なんで? せっかく見付けたのに」
「律には手を出すな」

 記憶にあるクロとは違うクロが目の前にいる。

「ボクから《食事》を取り上げるつもり?」
「『律には』手を出すなと言っただけだ。誰も喰うなとは言ってない」

 お互い真剣である。

「じゃあさ――」

 冷めきらない夜風に、カーテンが揺れている。
 ナハトは首を傾げて問い掛けた。

「ボクの《契約者》が見つかるまで、クロが血をくれる?」
「やだ」
「えー……傷なんてすぐ治るのに」
「痛いのは嫌だ」
「とか言ってさ、《対象者》とかの為なら大怪我負ってでも戦うんだよね」

 体から力を抜いてソファーにもたれかかると、部屋の隅に残っていたコウモリに目をやる。主人を置いて全てが出払う事はなく、必ず数匹は残ってナハトを見守っている。一人でも平気なのに。
 いつの間にか窓辺に移動していたクロが、飴玉をカラコロ言わせながら月を見上げていた。

「約束したんだ。守るって」

 うっかり聞き零してしまうような小さな呟き声を、人間の何倍もの聴力を持ったナハトの耳は拾い上げた。

「……守る?」
「そう。お前みたいな奴から」

 からからと笑ってクロは翼を広げた。記憶にあるものより大きい。

「何を――」

 言いかけて、疑問がはっきりとした形になっていないのに尋ねてもいいのかと躊躇ってしまった。

「『何を』?」

 クロが途切れた言葉を繰り返し、続きを促す。
 ゆっくり、自分の中の疑問を確かめるように、ナハトは続きを言葉にした。

「何を……抱えているのかは、教えてくれないんだね」

 どう答えたものかと考える素振りを見せ、クロは苦笑いで言った。

「おれも、常に一緒に居てくれる奴を探してるとこだ」

 「それはボクではダメ?」
 たった一言を音にする前に、クロはルビを連れて飛び立った。


 暗い部屋の外で、秋の虫が一声鳴いた。








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