星の行く末、深淵の原

□血と狂気のオープニング
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 闇に浮かぶ、二つの月。
 血を求める獣の証。



【1、血と狂気のオープニング】



 その夜、屋敷では夜会が開かれ、多くの客人が招待されていた。
 慣れない酒に負け、部屋を借りて休んでいた私は、不穏な音に目を覚ました。
 まだ頭がぼんやりしている。自分で笑ってしまうほど、私は酒に弱かった。
 ゆっくり立ち上がり、部屋の扉を開ける。異臭が鼻をつく。夜会の会場がずいぶんと賑やかだ。しかし、段々静まっていく。
 静まるほどに、近付くほどに、鼻を突く異臭が強くなる。

 近付くな。

 扉に触れるな。
 そのまま逃げろ。

 本能が発する警告を遠くで聞きながら、私は広間の扉に手を添えた。
 ゆっくりと押し開く。

 紅い絨毯に横たわる色とりどりのドレス。
 数刻前まで華やかな空気だったものが、今はむせ返るほど濃い血の臭いしかしない。
 男も女もなく床に臥した会場の中、一人、自分の足で立っている者がいた。
 後ろで結われた黒髪には簡素な装飾が施され、黒衣の礼装から今夜の招待客かと思われた。
 金色の目が、こちらを向いた。

「こんばんは、お嬢さん」

 ゆっくりと――とてもゆっくりと体ごとこちらへ振り返り、歩み寄る。
 床と同じく赤く染まった彼の手にあるのは、まだ生きると言いたげに、痙攣するように脈打とうと動く赤いモノ。
 彼の足元に寝ているのは、胸元に赤い穴の空いた――夜会の主催者。



「――…っ!」

 上げそうになった悲鳴が喉元で押し止められる。
 視界が、暗くなる。
 彼が何かを言ったようだが、聞き取る事は出来なかった。


  *  *  *


 数日後。
 地方新聞の小さな記事は、夜会に集まった人々が紅い部屋を残して消えたことを伝えた。




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