星の行く末、深淵の原
□召し抱えたのは支配力
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夜道は黄泉路
満月の下で
ざわめく木々の咆哮
【4、召し抱えたのは支配力】
虫も眠る真夜中に、屋敷に訪れる者、一人。壊れたチャイムに目もくれず、迷う事なく目的の部屋へ。
「……食事中ですよ」
人間にとっては血生臭い――しかし、吸血種にとっては魅惑的な匂いが充満する中で、屋敷の主は客人に見向きもしないで言葉を投げ掛けた。
客人はお構いなしに入室し、扉を閉めた。静かに、ゆったりとした足取りで屋敷の主が座るソファーに近付く。
「獲物を逃がしたらしいね」
「……喰ったんですよ」
綺麗に肉の無くなった骨を皿の隅に除ける。
隠すつもりはない。もちろん嘘だ。
「人間に情を移すなど…」
「情なんて移してない。……あまり、美味しそうに思えなかったからですよ」
嘘しか出てこないのか、この口は。しかし嘘も真(まこと)も同じようなものなのだ。どちらにせよ、信じられる事は無い。信頼されるなんて事はありえない。
「吸血種とは……哀しい生き物ですね」
「たった百年生きただけの若造が知ったような口を」
一度目を閉じ、ゆっくりと開く。鏡越しに金色の目が互いを見つめた。
「知っているか。ターク家の当主が代わった」
「ターク家……ふぅん。今更、当主が代わった所で潰えるのは目に見えてます」
舐めていた眼球から外れた水晶体を取り出す。
「食べ方の好みは彼と同じだな」
「ははっ。嬉しくないね」
月が雲に隠れ、闇を作り出す。
秋の虫が一度だけ鳴いた。
「まずは彼の弟君から――ですかね」
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