星の行く末、深淵の原
□踏みつけた屍
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鎌を揮うは冥府の記憶
傷の目 影践み
零落が音
【5、踏みつけた屍】
白い髪は老人のそれとは違い、生れつきの色。
異なる種が交わったが為の忌まわしき色。
父も兄も、闇に溶けるような黒色の髪と月のような金色の目を持っているのに。同じ父から生まれたのに、この違いは何だ。
兄は父の後を継いで、当主になった。繁栄は昔話。今は没落貴族のターク家当主、ナハト・ラタルデ・ターク。
嫌いだ。嫌いだ――けど、嫌いになりきれない自分がいる。それが余計に気に入らない。
「……」
不機嫌に眉根を寄せて部屋の入口に目をやる。
嫌な気配が扉の向こうに迫っている。自身より上位の吸血種。
長年生きてきて、蔑まれた経験だけは多く持っていたせいか、危険を察知する能力には長けている。望んでもいないのに。
静かに立ち上がり、窓から外へ出た。月はない。外灯もない。嫌な気配はまだ家の中だ。
ここ数カ月は特に追われっぱなしで、いい加減にしろと言いたかった。
「……父さんのせいだ」
苦々しく歪んだ目が、今度は大きく見開かれた。
さっきまで建物の中にあった気配が外に――すぐ後ろにいる。
人の姿を模した闇が、金色の眼を開く。
「選ばせてあげる。
従うか、喰われるか」
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