久留山家謹製音声通信機能付縫いぐるみ型監視カメラの記録

□監視屋と囚人
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 冷たい壁に囲まれて、冷たい鉄格子を挟んで、二人は居た。
 目を合わせる事もなく、ただ居るだけの存在同士。
 たまに零れた言葉を広って返すだけの関係。

「監視屋なんて……嫌い」
「そう」
「こんな閉じ込められてる子供見て、何が楽しいわけ?」
「仕事だからね。楽しくなくても見てなきゃいけないんだ」
「……あんたは特に訳分からない」
「そう?」
「仕事だからってこんな……」

 深く俯き膝に埋められる表情は暗い。

「……出してよ」
「……」
「ここから出して」
「今俺に命令出来るのは、お金出してくれてる依頼主だけだよ」
「ふざけてる」

 低く、短く、しかし断続的に呟かれるのは呪詛の言葉。それは監視屋と彼の雇い主に対する言葉。
 呟きが途切れ、しばしの沈黙。

「……ねえ」
「うん?」
「殺して」
「しないよ」
「じゃあ……」
「しないし、させない」

 監視屋は右手を握り、強く引いた。同時に鉄格子の内側で悲鳴が上がり、金属が落ちる音がした。

「――っ何で! 何で邪魔する! 見てるだけのくせに!!」

 そう。見ているだけ。
 対象に手を出す事も、対象が自らを傷付ける事も禁じられている今回の仕事。本当に、何の為にいるのだろうと自分でも思っていた。
 黙っている間にも投げ付けられる言葉。

「何とか言えよ!」
「何を?」
「あんた自分のことぼろくそに言われて何とも思わないのか!」
「もう、慣れちゃったから」

 悲しいことを言う。
 もう、悲しいとも思わなくなっていた。
 仕事だと割り切って、世界の動きを見続ける。

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