久留山家謹製音声通信機能付縫いぐるみ型監視カメラの記録

□擬似家族写真
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 夙がよく足を運ぶ場所のひとつに、何でも屋テオの事務所がある。軽くノックをしてから扉を開けると、ソファーに座り、何やら四角い物を眺めている黒髪の男性――彼がこの事務所の主、テオーリアだ。
 仕事中だろうか。遠慮がちに入室する。
「いらっしゃい」
「あ……すみません、仕事中に」
「仕事? ……ああ」
 夙の言葉に一瞬キョトンとした後、自身が手にしている物に気付いて笑った。
「仕事じゃなくて、気が向いたからちょっと物置を片付けていたら出てきたんですよ」
「?」
「カメラです。型は少し古いけれども」
「テオさんの?」
「いえ、きっと先代の置き土産です……まだ使えそうだな」
 おもむろにカメラを夙に向けてシャッターを切った。
 パシャリ
 音と光が、内部構造の作動を知らせる。
「!?」
「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ」
「や、だって、魂を取られてしまうって……」
「君はいつの時代の人ですか。ほら、何ともないでしょう」
「……」
 納得しきらない表情で、夙はテオの隣に座った。膝を抱えて、足を揺らす。足首の環鈴が控えめに音を出す。
 沈黙の中、秒針の音と鈴の音と屋外の音と。
「良い音ですね」
「……」
「で、今日はどうしたんですか?」
「……なんとなく、来てみただけ。迷惑…?」
「いいえ。夙君の元気な姿が見られて嬉しいです」
「……」
 微笑みに沈黙で返す夙。表情に大きな変化はないが、よく見ると頬が色づいている。一瞬テオを見て、膝に顔を埋めた。
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