久留山家謹製音声通信機能付縫いぐるみ型監視カメラの記録
□樹化症
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夙が扉を開けたのは、病院の一室。風に揺れる葉の音さえはっきりと聞こえるほど静かな院内には、他の病院で匙を投げられた患者が治療を受けている。
ベッドから外を眺めていた依頼人は、夙の入室を確認して、くしゃりと微笑んだ。
「よく来てくれたね」
招かれるままに来客用のパイプ椅子に座る。足元には床を隠すほどの花が落ちている。
俯いたまま、夙は言う。
「……今の技術じゃ、無理だって。神頼みでもしてみたらって、行く先々で言われた」
穏やかな午後の陽光が似合わない話だ。
この病院に預けられている患者は、治療という名目のもと、研究材料として消費されていく──知りたくなかった世界の一片を正直に依頼人に報告する。
そうかそうかと聞いていた老人は言う。
「まぁ、私も長く生きたからねぇ。何となくは分かっていたんだよ」
膝に置いた拳を固め、夙は問う。
「諦めるの?」
「諦めとは、違う、かなぁ……ゴホッ」
咳き込んだ老人の口から溢れたのは、痰や血ではなく、鮮やかな橙色の花弁。樹化症の末期症状だ。
「生まれ変わったら、金木犀かな」
「……笑えないよ」
「ふふっ若いのぅ」
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