星の行く末、深淵の原

□召し抱えたのは支配力
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 穴だらけのカーテンでも、一応遮光には役立っている。
 とある《幽霊屋敷》と呼ばれる屋敷の二階、階段を上ってすぐの部屋に屋敷の主はいた。
 闇に溶ける黒髪、僅かな光を反射して闇を見通す金色の目。真剣な表情で手元を見ている彼が持っているのは、糸の通った縫い針と……布と綿の塊。
 綿を押し込んで丸く膨れた茶色い布の塊を繋ぎ合わせて形作っているのは、どうやら縫いぐるみのつもりらしい。



『ナハト様』

 彼の名前を呼び、部屋に入ってきたのは一匹の老コウモリ。

「……」

 返事はない。集中しているようだ。
 老コウモリはナハトの手元近くに降り、もう一度呼び掛ける。

『ナハト様』
「ん……………ああ。ジージか」

 ようやく老コウモリの存在に気付き、作業の手を止めた。
 ちなみに――「ジージ」は「老いたコウモリ」だからではなく、「ジジジと鳴く」のが名前の由来である。幼い日のナハトが名付けたものだ。
 ジージが足で持っていた包みをナハトの膝の上に置いた。柔らかい布の中で、何かがカサリと音を立てた。

『ご友人からのお土産でございます』

 結び目を解いて、包みを広げる。出てきたのは、個包装された暗赤色の飴玉。魔界で人気のある菓子のひとつ、《ブラッディ・キャンディ》だ。
 はっとして顔を上げ、部屋の入口を見る。
 髪も目も服も、上から下まで黒一色で統一された少年が立っていた。傍らには蝙蝠羽の生えた黒い玉が飛んでいる。

「久しぶり」

 笑いかける少年に、ナハトは手にしていた物全てを放り出して飛び付いた。

「――っと。体格差考えろよ」

 あっさりと避けられてしまったが、再会の嬉しさの方が大きい。

「ボクの家へようこそ!」

 ナハトは笑顔で客人を歓迎した。

「会いたかったよ、クロ」
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